2019年の映画。越川道夫監督作品。こんな映画が作られていただなんて知らなかった。鹿児島県の最北端、長島島を舞台にした町おこし映画の1本なのだが、単なる島のPR映画ではなく、特別養子縁組を巡る産みの母親と育ての母親(と、その家族)の物語で、同様の題材を扱った河瀨直美監督の傑作『朝が来る』よりも1年以上早く作られている。作品の完成度でも見劣りはしない隠れた傑作だった。(僕が知らなかっただけなのかもしれないけど、きっと大阪ではひっそりと公開されていたはず)
貫地谷しおりと山田真歩がw主演でふたりの母親を演じる。昨日見た『親愛なる君へ』にも通じる家族の在り方を描く作品。2時間13分の長尺だがまったく飽きささない。緊張を最後まで持続する。冒頭の漁のシーン(この場面が長い、でも、それによってこの島での暮らしがしっかりと伝わってくる素晴らしい導入)から始まりラストの少年が太鼓を叩くシーン(この子がこの映画の中心なのだ!)まで無駄なシーンもなく、描くべきことを端折ることもなく、じっくりと見せるべき場面を見せていく。嘘くささがないのもいい。子供を巡るふたりの想いがぶつかりあい、子供のことばを通して和解していくまでを描く終盤の展開も見事だ。ちゃんと納得のいく納め方で、こう来るかと、感心し舌を巻いた。海を前面に押し出しこの島が子供たちを育てるという結論部分もそんな大仰なこと、と思わさず、それでいいと思わされる。町おこし映画としても納得の展開だろう。
不自然さがないし、わざとらしさもない。とても自然なのだ。ドキュメンタリータッチの描写もいい。血のつながりと、共に暮らした時間による絆。譲れない想い。子どもの気持ちが置き去りにされているのではないか、と不安になったところで、きちんと彼の想いが彼自身のことばで語られていく展開の妙。彼がこのお話のラストをまとめる。未来につながる。実に上手い。(台本は嶋田うれ葉)祖母役の木内みどりが絶品。(この映画と岩井俊二の『ラストレター』が遺作となったはず。 たぶん)