なんとオリジナルであるいのうえひでのり作品(今回は「NEXT歌舞伎」として染五郎主演で東京公演がなされる。大阪は9月松竹座にて上演。今、盛大に宣伝がなされている)との競作ということになった金蘭会のHPF公演。
久々に金蘭がその持ち味である壮大なスケールの作品を30数名のキャスト(本来ならもっと必要なのだが)を総動員して描く超大作。本来なら2度ほどの休憩を入れて3時間半ほどに作品として見せてもよいのだろうが、今回は休憩なしで2時間20分一気に見せてしまう。勢いで押し切るのだ。
できることなら、最低2幕構成にすべきところだろう。そうすることで悠々たるタッチで見せることも可能だ。しかし、劇場の条件とか、諸事情を考慮して早い展開で一気呵成に雪崩れるようなタッチでどんどん詰め込み勢いで見せてしまうことにした。
彼女たちはそういうスタイルで、生き急いだアテルイたち北の民の悲劇を描く。今の彼女たちなら3時間の作品にすることの可能なのはわかっている。昔の勢いを取り戻して、多彩なキャストを擁した現在のチームなら、いのうえ歌舞伎(というより、いのうえ作品は本家の『歌舞伎』作品としてこれは再生しているのだが)に対抗するスケールでこの作品を見せることなんか困難ではない。しかし、高校演劇としての特徴を大切にして、高校生歌舞伎として見せてやろうとするのだ。その心意気たるや。
環境自在の堂々たる作品である。だが、そこには国家間の戦い、戦略、暴挙に翻弄される民に悲劇が根底にある。だが、政治的メッセージを前面に押し出すのではなく、まずはエンタメとして楽しませてくれる。女子高生たちが、これだけの殺陣を必要とした作品に挑み、華やかなアクションを見せ、吹田メイシアター中ホールという大きな箱を縦横無尽に駆使して、大劇場仕様の作品に難なく挑む。主人公のアテルイと坂上田村麻呂を演じた2人だけではなく端役に至るまで実に個性的で魅力的なキャストを組み、彼女たちがこの壮大な古代ロマンの世界を体現する。
都を揺るがす盗賊一味を捕らえる場面から、主人公2人の出会い、やがては戦争へと至る蝦夷と大和の戦いを、緩急自在の悠々たるタッチで熱く見せていく。やがては天皇との対峙に至る壮大なドラマは大きな国が小さな国を蹂躙していくどこにでもある悲劇の歴史のドラマだ。そこに運命に翻弄される男女の物語を絡めた作品は感動のクライマックスに至る。
こういう作品を作りたかったという山本篤先生の意気込みと、それを受けて気負うことなく体現した金蘭演劇部の地力。これはそんなこんなのすべてが機能して実現した金字塔である。