ジョン・ウーの大作『レッドクリフ』に諸般の事情から参加できなかった無念を晴らすかのように主役として曹操を演じたチョウ・ユンファが渾身の演技を見せる大作歴史劇。
『三国志』をどう料理するのか、は、誰もが頭を悩ませるところだろう。あまりに壮大すぎてどこにどう手をつけるべきか、悩む。ピンポイントで攻めることが成功の秘訣だ。ジョン・ウーもまたそこは熟知していた。だから「赤壁の戦い」に絞り込んだ。しかし、それでも結果的に(彼の場合はハリウッドや日本のTV局のように最初から商業的な事情でそうしたのではない!)5時間、2部作の大作にしなければならなかったのだ。
今回チャオ・リンシャン監督(なんとこれが初監督作品らしい。堂々としたものだ)は、さらにピンポイントで攻める覚悟だ。主要登場人物3人。さらには曹操の孤独、という部分に絞り込む。もう究極だ。しかも、チョウ・ユンファはアクションを禁じられる。動かない静のドラマを体現する。
だが、問題ない。映画としてはちゃんと見せ場も用意されてあるアクション大作仕様だ。娯楽映画として、そこは絶対に外せない。それだけに前半の曹操暗殺を描く部分が素晴らしい。ここぞとばかりの派手な立ち回りと、仕掛けで見せてくれた。摑みとしては最高だろう。しかし、その後は静かな芝居に終始する。だが、自分を暗殺しようとした皇帝と向き合う曹操の殺意を体現した部分の緊迫感たるや。さすがユンファとうならされる。
ユンファと向き合うことになる若きアサシンでもある2人の恋人同士(玉木宏とリウ・イーファイが演じる)のドラマを背景にしてこの小さなお話はストレート。ラストまで一気だ。1時間48分という上映時間が実に的確。切ないラブストーリーとして完結する。傑作とは言わないけど、この心意気たるや、である。原題は『銅雀台 The Assassins』、こっちのほうがいいけど、営業的にはこの日本版タイトルは仕方ないだろう。音楽は梅林茂。彼はこの手の中国映画には欠かせない人物になってしまった。凄い。