「ウイングカップ4」で最優秀賞を受賞した作品の再演である。初演の時、この危ない題材の取り扱いと、圧倒的な未整理なままの情報量に、ちょっと待てよ、と思わされた。今回はそこをきちんと整理して、すっきりさせた状態にして再演するはずで挑んだのに、中川さんは「以前より詰め込んでしまいました」とパンフで書いているし、同じことを劇場の入り口でお会いした時、直接本人からも言われた。
まずそのことを本人も自覚している。でも、それでいい、と思っている。そのことに対して僕はそれでいいじゃないか、と思う。それでこそ、中川さんだ、と思う。本人はそれで納得しているみたいだし。書いているうちにどんどん言いたいことが増えてくる。うらやましい。
作品はとても中川さんらしい。確かに前よりは少しスマートになったし。でも、彼の中の怒りや苦しみ、腹立ちは収まることはない。この世界の不条理に対して、全力で拳を振り上げている。差別や偏見。世の中の不平等。ストレートにぶつけてくるのは、いつもと同じ。雑然として、いろんな問題を放り込んで、ゴロッと転がしていく。そこには、もう少しテーマへの突っ込みや整理が必要なのに、素材のままで、置いてけぼりにして、さらに先へ先へと話を進めてしまう。そのへんが中川さんのダメなところだと思う。発想のすばらしさを生かし切れていない。
正直言ってこの芝居は、高校を卒業して10年以上経った今、あの時の教師を殺しに来た男と、たまたまその現場に居合わせた女子高生の逃避行の1週間だけを描いても1本の作品になったのだ。そのシチュエーションのなかに、ここで描こうとした問題を詰めこんでいけばいい。なのに、そんなことは入口にしてしまって、あれもこれもと描きまくり、収拾がつかない。
これだけの内容を90分にして見せる中川真一の手腕をどう評価するか。いろんな人に意見が聞きたくなる芝居だ。