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映画・演劇のレビュー

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

2009-02-14 17:31:08 | 映画
 3時間に及ぶ大作だ。奇妙な運命のもと生まれたひとりの男の生涯を追いかけた。彼は老人の状態で生まれてきて、赤ちゃんになっていく。普通の人間の逆を行く。誕生時は80歳くらいの状態。徐々に若くなる。そして消えていく。

 映画はそんな不思議を描く。だが、ベンジャミンの人生はそれ以外に特別なことはない。(まぁ、これ以上の特別はないが)映画は彼の生い立ちから死までを静かに描く。普通の人の人生と同じくらいには波乱万丈だが、それ以上ではない。この主人公がただの普通の人であったなら、この映画は退屈なものでしかない。だが、彼は時間を遡る。それだけで充分に映画的だ。映画の主人公にふさわしい。

 彼がある少女に恋をする。だが、自分は老人の顔をした子供で、彼女への恋は叶わない。二人は特別な絆で結ばれている。彼女は老人の顔の付いたこの子を怖がらない。普通に友だちとして接する。だから彼もまた彼女に対して普通に接することが出来る。二人は成長する。

 バレエダンサーを目指す彼女がパリに行ってしまう。彼は船乗りになる。やがて彼は彼女を追いかけパリに行く。だが、2人はお互いを気にしながらも一緒にはなれない。なんだかメロドラマみたいなお話だ。いくつものエピソードは別にどうってことがない。だから退屈する人もいるかもしれない。

 『セブン』『ゾディアック』のデビット・フィンチャー監督作品である。いつもの彼とはまるでタッチが違う。事件や出来事を凝縮されたものとして見せるのが得意な彼が、なんでもない淡々としたタッチである人(もちろんベンジャミンなのだが)の人生の記録を作る。

 映画が描こうとするものは、彼の生きることの喜びと悲しみだ。そんなもの別にこんなおぞましい設定にしなくても描くことは可能だ。なのになんでもないありきたりなテーマをこの設定をして見せる。そうすることでなぜかありきたりの人生が愛おしく思える。不思議な味わいの映画となった。映画を見終えたとき、なんだかよくわからないが充実感があった。彼と共に長い長い旅をしてきた気分だ。まぁ3時間は充分長い。

 ブラッド・ピットは終盤の若いシーンでの美しさに驚かされた。まるで『リバー・ランズ・スルー・イット』のころのようだ。美しいブラピを堪能したい人にはうってつけの映画だ。それにしても特殊メイクとCGはほんとに凄い。ここまでやってしまうなんて。だが、そこまでして映画はこんな単純なことしか描かない。それってもっと凄いことかもしれない。

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