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映画・演劇のレビュー

石井颯良『あけびさんちの朝ごはん』

2023-04-10 13:25:38 | その他

角田光代『ゆうべの食卓』がとてもよかったので、もう一冊、食べることを題材にしてそれを前面に押し出した小説にチャレンジ。ということで、この本を読むことに。最近「食」を扱う小説がやけに多い。この作者石井颯良の本は初めて読む。安易な小説ならいやだな、と心配しながら、少しドキドキして読み始めたのだが、なかなか面白いし、これはアタリだった。

独自のテンポで堂々と描く。面白い設定だが、そのストーリーだけに引っ張られるのではなく、主人公となる3人のそれぞれの思いに寄り添い、お話をじっくりと見せていくのがいい。おいしそうな食事を通して安易に描くのでもなく、まずちゃんとお話を見せる。食はあくまで隠し味。でも、とても大事な隠し味でそれがお話の根幹をなす。

挙式直前、婚約者の浮気で婚約破棄。仕事は寿退社したし、住んでいた部屋も解約した。だから、仕事も家もない踏んだり蹴ったりの27歳、明日彼方(あけびかなた、と読む)が主人公。彼女が交通事故で夫とともに亡くなった従姉の葬儀に行き、そこで天涯孤独の身になった従姉のふたりの子供たち(高校2年の兄と4歳の妹)を引き取ることになる、というまさかの展開からお話は始まる。そこからの展開は基本はよくある想像通りのお話にはなるのだが、じれったいぐらいに紆余曲折がある。でも、そこがこの作品のよさだ。高2男子は単純ではない。なかなか彼方に心を開いてくれない。

だから、ひとりぼっちの3人が心を通い合わせ支えあいながら生きていく、という定番にはなかなかならない。お互いが距離を作りすぎてうまくいかない。だから読んでいてイライラする人もいたはず。でも、現実だってこんなものではないか。それまで全く接点になかった者同士が共同生活を営むなんて簡単ではない。しかも、状況が状況だし。

「朝ごはん」にポイントを絞り、そこに込められた想いが描かれていくのは秀逸。甘い設定や展開もあるけど、このタイプのお話ならそこは当然だろう。幼なじみの由貴緒とその兄である結人(彼はたぶん彼方が好き)のヘルプがなくては彼方たちは生きていけなかった。持つべきものは親友だね。


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