続々と新作が公開されていくフランソワ・オゾンの2020年監督作品。少年の切ない恋を描く『おもいでの夏』を想起させる作品だ。見逃していたので配信で見た。懐かしい80年代の空気と潮風(当然、海が舞台だ)の香りにどっぷりと浸かり、生涯忘れえぬ瑞々しいひと夏の初恋(男同士だけど)が繰り広げられる、という定番青春映画なのだけど、オゾンなので単純ではない。表面的には爽やかな映画、にだって見える。
夏の眩しい日差しの中、ヨットでセーリングするふたりの少年の出会いからお話は始まる。だが、ここですでに18歳の少年の死がナレーションで語られる。主人公の16歳の少年が遭難したところを彼に助けられる。夏の日の恋の始まりだ。だがすでに最悪は始まっている。海辺で出会った少女も含めて3人の関係がお話の根幹を成す。少女と書いたが彼女が一番年上かもしれない。だが年上とは言っても20歳にはならないだろう。じゃぁ、19歳か。もしかしたら17歳くらいかもしれない。16歳と18歳の恋人同士の少年の間に入る微妙な存在。
夏の日の恋は儚い。でも、この映画の恋はそれ以上に悲しい。突然のバイク事故で無残な結末を迎える。夏の日の終わり、別れ話の後の出来事だ。いや、無残は死後のお話の展開のほうだろう。原作のエイダン・チェンバーズの小説『おれの墓で踊れ』というタイトルが示すエピソードが象徴的だ。それは生前のふたりの約束だが、それをかなえようとする主人公の心情がなんだか歪で、破滅的。淡い青春の思い出には収まらない。死が二人を分かつ、という展開だけでも微妙なのだが。死体に会うため奔走する。あげくは墓場荒らしまですることになる。彼への想いが美しく描かれるのではなく、無残に描かれていく。
正直言うと、あまり面白くはなかった。なんだかもどかしい映画だ。もちろん悪い映画ではないけど、何が描きたいのかが伝わらない。夏の日の恋という甘い感傷には収まりきらないけど、それ以上の「何か」は僕には感じられない。