夢のようなお話だ。でも、これは実話である。日本画の常識を覆すような大胆な作品を作り、画壇に認められた女流画家、片岡球子の生涯を描く。こんなにも心地よい芝居を見ることができてうれしい。100分間の至福だった。
これは「あきらめないで頑張り続けると努力は実る」とかいうようなお話ではない。ここには評伝劇にありがちなそんな苦難のドラマはない。でも、だからといって彼女がノーテンキにただ好きな絵を描いてきただけ、ではないことは当然のことだ。「世の中に認められない苦悩を描く重苦しいドラマはかんべん」と思ったが、高橋さんはそんなありきたりな芝居を作らない。作、演出の高橋恵が描くのはありのままの真実の彼女の姿だ。
このタイトルなのに、あっけらかんとしている。そこに象徴する高橋の意図は明白だ。女性だからという差別意識や、理不尽は表立って描かれない。それより、彼女が絵を描くのが好きで、楽しい、という、まず大前提となることが前面に押し出される。そんな女性を得田晃子が見事に演じた。それと同時に描かれるのは、彼女の自分を曲げない姿。当時の世の中には求められない絵を描く。だから認められない。でも、自分の描きたいものを描く。ゲテモノ扱いされても動じない。すごく強い。でも、強い意志を持つ女として描くわけではない。無邪気な姿が描かれる。絵筆を持つと止まらない。ずっと描き続けていたい。そんな彼女を周囲のみんなが支える。これはそういう群像劇でもある。
この作品と同じように女流画家の生涯を描く作品がある。今年再演された演劇集団よろずやの名作『青眉のひと』だ。先日、久々にあの芝居を見てとても感動した。もちろん本作もあの作品に引けを取らない傑作だ。同じ年にこの2作品が並ぶ偶然に、なんだか(どうでもいいことなのに)うれしくなった。