とても丁寧に作られてある。テキストを大事にして忠実に作品世界を立ち上げた。大竹野戯曲は役者に当て書きしたものが多いし、稽古をしながら、書き足していくというパターンも多いので、演出は難しいはず。完成された台本というわけではない。でも、その未完成なところが魅力でもある。そんな彼の台本を高橋恵はテキスト重視で忠実に再現する。
まず、『愛の棲家』だが、45分の中編としてテンポよくまとまった。大竹野作品であるにもかかわらず、とてもテンションが低い作品に仕上げた。感情的にならないのもいい。基本は2人芝居で、ふたりの男女のやりとりが彼らの抱える孤独へと収斂されていく。尺の問題もあり、この静かな作品を先に上演したのだろうが、本来ならこちらを後ろにしたほうが収まりはよかったはずだ。でも、そんなことは気にならない。実にテンポよく2本目に続く。
続く『三人虜』は、オリジナルキャラクターの設定が生かされた完全あてがき芝居なのだが、これをテキスト重視で再現すると、どうしてもつまらないものになる。新キャストに合わせてアドリブを入れてリブートしても、よかったのだろうが、そうすると、全体のバランスが崩れてしまうし、この本の魅力が半減される。だから正攻法でここでもテキスト重視を貫いたのだろう。3人のキャラクターが前面に出てくる掛け合いの面白さがこの作品の魅力だがドラマ重視で最後まで押し出した。ラストの電話のシーンがとてもいい。現実と幻想のあわいで自分を保ち続けようとする男の内面がよく出ている。
2本連続上演で2時間20分という長尺になったが、一見すると関連性のない2作品を敢えて連続上演しながら、一貫した世界観(大竹野ワールドともいうべき世界)を提示し、それが確かに高橋さんの世界でもあるというところが見事だ。自分に引き寄せるのではないやり方で自分らしさを提示できる。それは彼女のテキストへのリスペクトがそうさせるのだろう。役者たちもへんな自己主張をせず、自然体で作品世界に入り込んだのがよかった。夢のような残酷な世界がこの2作品を通して提示される。結果的には、「大竹野ワールド」を提示するためにこの2本連続上演という離れ業は有効的だった。