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映画・演劇のレビュー

『チタン TITANE』

2022-04-20 09:27:02 | 映画

2021年カンヌ映画祭パルムドール受賞作品である。壮絶な映画で唖然とさせられる。こういう作品に最優秀賞を平然と与えるカンヌは凄い。映画を見ながら、これは一体何なんだ、という驚きが最後まで続く。ふつうなら最後には納得するような納めどころが用意されるのだろうが、最初から最後までそんなチャチなものはない。平然と変態的なドラマが、堂々と綴られていく。しかも、お話には一貫性がない。場渡り的で刹那的。どんなふうにも転んでいきそうだ。予想がつかない。気がつけば、そこまでの展開はなんだったのか、と思うような地平へと連れてこられている。

冒頭のカークラッシュからして衝撃だ。この少女は何をしでかすのか。しかも、そこには何の悪意もない。ただただ本能に導かれるまま。車のエンジン音が好きで、それを真似ていただけ。結果的にその事故で自分が傷つく。頭に鉄板をはめ込むことになる。そして、いきなり大人になった彼女がモデルとして車の展示会場にいる。セクシーな肢体で車と戯れる。その後、カーセックスが描かれるのだが、それって、なんと車と彼女がセックスするんですけど。どういうこと?!って感じ。さらには彼女が連続殺人鬼になって、残酷な殺しを続けるし、車との間に赤ちゃんが出来て、お腹はどんどん膨らみ、妊娠によるものだけではなく、チタンとの交合による影響か、体自身まで異常な変化を遂げていく。塚本晋也の『鉄男』を想起させる展開だが、あの伝説のパンク映画よりさらに過激だ。警察から逃れるため、顔を変えるため、整形するのではなく、なんと自分で殴ったり机にぶつけたりして鼻を潰すのだ。もう見ていて痛い痛い。長かった髪の毛を切って、坊主頭にして男になる。さらしを巻いて胸や膨らんできたお腹を隠す。(そんなことで隠せるのか? しかも、強く押さえつけるから苦しいはず)体を掻きむしるシーンが何度となく繰り返し描かれるのも、不快で、怖い。

どうしてここにあらすじを書いているのか、自分でもよくわからないけど、なんとなく書いてしまう。確認したくなるのだ。「なんだったのか、この映画は、」ということを。さらに、この後の展開もすさまじい。いきなりわけにわからない親父が出てきて彼女の父親だと言い、警察から引き取り、連れて帰る。彼女の父親はこんな顔ではないし、彼は消防署の隊長で、彼女を息子として自分の職場で働かせることに。どこまでも予測不可能な展開が続く。そして、映画は終盤に入るはずなのに(1時間48分の映画で、体感としてはもう90分以上は見ている!)赤ん坊はいつまでたっても産まれない。

そして、ここから怒濤のクライマックスへ、突入する。(さすがに書かないけど)いきなりタイトルが出てきて映画が終わったことを告げられる。驚きではない。茫然自失なのだ。何が何だか訳が分からない興奮に包まれる。書かないと言ったけど、書くと、こういうことがラストで描かれる。

消防団員たちの倉庫でのパーティーで彼女が車の上で踊りだす。男として、ではなく、セクシーな女性として、だ。そのあと、出産シーンになる。彼女が死んで、赤ん坊が生まれる。父親が祝福してメタリックなパーツを持つ男の子を抱き上げる。おいおい、娘が死んだのに喜んでいるのか。

恐るべき女性監督ジュリア・デュクルノー。彼女の拘りは、理解を絶するにもかかわらず、ずしんと胸に響いてくる。理屈ではなく本能が感応する。リンチの『イレイザーヘッド』を初めて見たときの衝撃に迫る驚愕の体験だった。


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