新人作家のデビュー作が続く。そこで描かれるのは未来の不安だ。もちろん不安なら誰しも抱えているだろう。こんな危うい日々の中で、先は見えないし。そして、不安とどう向き合うかは人それぞれだけど、彼らの姿を見て、それを通して見えてくるものに縋りたい。だからこの手の小説を読んでしまう。ある種の答えを求めている。それくらい僕だって不安なのだ。そして、もちろん作者も、であろう。
この小説の三兄弟の関係は危うい。先日読んだ小路幸也の『三兄弟の僕らは』は両親の事故死から始まる話だったが、こちらは最初から両親はいない。いや、いないわけではないけど、微妙。だいたい血のつながらない三兄弟の話ってなんなんですか、という感じ。兄とひとつ下の妹、かなり歳が離れた弟の3人暮らし。1年前から惣菜屋を始めた。下の弟は中学校3年になった。上のふたりは20代の半ばになる。もうちゃんと大人だ。
中3の彼が家を出て自立したいといい出すことから話は始まる。まだまだ子どもだし、彼を守ることでふたりは生きてきた。だから、ショックは大きい。裕福な父親からの仕送り金はある。だから貧しいわけではないが、自分たちだけで生きたい。父はなぜ彼らを手放したか、その事情はなかなか複雑で書くのは難しいからここには書かないけど、誰かがいるから生きていけるていう設定とそれがいつ壊れていくかのという不安は誰もが知っている。お話はそこに尽きる。だから普遍性がある。
着地点もかなり微妙で不思議な話になっている。おいしい料理(惣菜を)買いに来て、食べる。おいしいコーヒーを味わう。幸せになれる。それだけを描く、そんな小説ではない。でも、家族の葛藤を描く、だけではない。ふたつがちゃんと連動してひとつにつながる。刑事の花井さんの存在がアクセントになる。主人公のヒロがハワイの母親と祖母を訪ねるエピソードがラストに来る。兄の晴太、弟の蒼。ふたりとの関係も淡く描かれる。なんだかまとまりのない小説だけど、そこが魅力でもある。ありきたりでわかりやすいお話ではない、のがいい。