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映画・演劇のレビュー

三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』

2007-01-01 20:09:35 | その他
 「愛情というものは与えられるものではなく、愛したいと感じる気持ちを相手からもらうことをいうのだ」という言葉がずんと胸に響く。
 
 三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』は便利屋の多田と、彼のところに転がり込んできた行天という高校時代のクラスメートの話だ。2人が便利屋として、この町で生きていく中で出会う人たちや、事件を描く中間小説なのだが、読んでいて、とてもいい気分にさせてくれる。よくできた1話完結のテレビドラマを見てる感じによく似ている。

 2人のキャラクターが魅力的で、バディームービーのスタイルになっている。丸山昇一が脚本を書いたらきっと面白いドラマになりそうな素材である。昔なら松田優作と中村雅俊主演。えっ、それって『俺たちの勲章』やん。まあそんな感じ。ショーケンと水谷豊でもいい。もちろん『傷だらけの天使』ね。探偵と便利屋って似てるしね。というか、これは要するにハードボイルドなのである。さっきの松田優作、丸山昇一というのは明らか『探偵物語』を意識したのだが、もう少しやわらかいイメージから中村雅俊を出した。どちらにしても20年以上前の時代の雰囲気濃厚な小説である。

 東京の果て、神奈川の手前というロケーション、まほろ町という架空の町を舞台にして、30代後半になった2人の男が、再会し、便利屋という仕事を通して出会う様々な人たちとの交流から、この世界の片隅でひっそり生きていこうとする姿を描く。

 幼い頃の児童虐待の記憶を根底に持つ行天と、自分のせいで生まれたばかりの子供を死なせてしまったという傷を持つ多田。なんとなく一緒にいて、気付けば、お互いの傷を舐めあうようにもたれあう。(もちろん2人はそんなふうに思ってないが)

 いかにも、というストーリー展開が心地よいのは、ストーリー自体のリアリティーよりも、ここに生きる彼らの心情をリアルに描いているからであろう。「幸福は再生する」というテーマも素直に、こちらの胸に届いてくる。なんとなく読んで、いい気分にさせてくれる小佳作である。

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