最初この原作を見た時、まず、そのすごいタイトルに心惹かれた。冗談のようなこのタイトルが、その作品の内容を見事に表現している。秀逸である。
この映画化困難な作品が、実写ではなく、アニメーションで映画化されることは、とても危険な試みだと思った。原作を解体するのではなく、単純に信奉するだけの映画になるのではないか、と危惧したからだ。あの世界をそのまま映画にしても原作を超えることは不可能である。原作のイメージを損なうくらいの冒険をしなくては映画として成立しない。映画を見る前は、それが可能だとは思えなかった。
映画はこのタイトルの持つ歪みを映画は表現しなくては、無意味だ。「鉄筋コンクリート」という言葉を「鉄コン筋クリート」とジャンクさせてしまう幼児性と、その単純な変換の持つ暴力性がこの作品のテーマなのである。しかも、異邦人であるマイケル・アリアスの手による映画化というのも怖いなと思っていた。
だが、出来上がった映画を見て安心した。この映画のクリエーターたちは、いろんなことをしっかり理解した上で映画全体をドライブしている。
原作を損なうことなく、自分たちの宝町をスクリーンにしっかり描き出す。そして、その世界の中で、自由自在にシロとクロの2人を泳がせていく。特に、映画の前半が素晴らしい。見事な美術によって作られた宝町を2人が縦横無尽に飛び回っていく姿を見ているだけで幸福な気分になれる。
しかし、後半に入ると、映画は破綻していく。それと同時に映画に描かれる世界も少しずつ壊されていく。ドラマは、後半「俺たちの町」が外から内から破壊され、気付くと彼らは逃げ回ることを描くことになる。この町が見えない手によって変えられていく。とはいえ、敵の姿は実ははっきりしている。しかし、その敵を倒せば世界の秩序が守られるという単純な図式はここにはないのだ。このへんをもう少し上手く描けたなら傑作が誕生したのではないか。残念である。
映画の終盤、バラバラにされた2人が、それぞれの場所で、ひとりぼっちで闘う姿が見ていて悲しい。クロは暴走する。彼は自分の暴力への衝動を止められない。こんなことをしても宝町は守れないのは分かっている。しかし、こんなことしか彼には出来ない。シロは警察に保護され、閉ざされた部屋でクレヨンを握り締め、取り憑かれたように黙々と絵を描き続ける。
クロの内なる暴力が爆発していく過程が、観念的に描かれていく部分が映画全体の流れを壊してしまうのは、残念だが、この作品世界をよくぞここまで持ち堪えた。先行するこのジャンルの傑作,大友克洋『AKIRA』にしたって映画全体を纏める部分で失敗していたのだから、これくらいしかたないかもしれない。
昭和2,30年代の懐かしい風景がベースとなったジャンク・ユートピアを舞台にして、この世界が、かってあったものを失っていくさまが描かれる。そんな中でもがき苦しみながらも、自分たちの世界を守っていこうとするシロとクロの2人の少年たちの傷みを丁寧に掬い取ろうとした、この映画の真摯な姿勢が僕たち観客の胸を打つ。
それにしても蒼井優のシロは素晴らしすぎる。声優というものが、映画をここまでリードしていいのかと思うくらいに、この作品世界を彼女の声が形作ってしまったのは驚きである。
【追記】
『花男』『ピンポン』そして、『鉄コン筋クリート』と一気に松本大洋のマンガを読破したのは5,6年前のことか。まったくルックスの違う3作品だが、突出した面白さで魅了された。あの絵のタッチが嫌いで、読む前には少し腰が引けていたのだが、友人から、どんと全巻渡されてしかたなく読み始めた。そして、気付けば、どんどん加速してページを捲っていた。その独自の世界観の虜になっていたのである。
この映画化困難な作品が、実写ではなく、アニメーションで映画化されることは、とても危険な試みだと思った。原作を解体するのではなく、単純に信奉するだけの映画になるのではないか、と危惧したからだ。あの世界をそのまま映画にしても原作を超えることは不可能である。原作のイメージを損なうくらいの冒険をしなくては映画として成立しない。映画を見る前は、それが可能だとは思えなかった。
映画はこのタイトルの持つ歪みを映画は表現しなくては、無意味だ。「鉄筋コンクリート」という言葉を「鉄コン筋クリート」とジャンクさせてしまう幼児性と、その単純な変換の持つ暴力性がこの作品のテーマなのである。しかも、異邦人であるマイケル・アリアスの手による映画化というのも怖いなと思っていた。
だが、出来上がった映画を見て安心した。この映画のクリエーターたちは、いろんなことをしっかり理解した上で映画全体をドライブしている。
原作を損なうことなく、自分たちの宝町をスクリーンにしっかり描き出す。そして、その世界の中で、自由自在にシロとクロの2人を泳がせていく。特に、映画の前半が素晴らしい。見事な美術によって作られた宝町を2人が縦横無尽に飛び回っていく姿を見ているだけで幸福な気分になれる。
しかし、後半に入ると、映画は破綻していく。それと同時に映画に描かれる世界も少しずつ壊されていく。ドラマは、後半「俺たちの町」が外から内から破壊され、気付くと彼らは逃げ回ることを描くことになる。この町が見えない手によって変えられていく。とはいえ、敵の姿は実ははっきりしている。しかし、その敵を倒せば世界の秩序が守られるという単純な図式はここにはないのだ。このへんをもう少し上手く描けたなら傑作が誕生したのではないか。残念である。
映画の終盤、バラバラにされた2人が、それぞれの場所で、ひとりぼっちで闘う姿が見ていて悲しい。クロは暴走する。彼は自分の暴力への衝動を止められない。こんなことをしても宝町は守れないのは分かっている。しかし、こんなことしか彼には出来ない。シロは警察に保護され、閉ざされた部屋でクレヨンを握り締め、取り憑かれたように黙々と絵を描き続ける。
クロの内なる暴力が爆発していく過程が、観念的に描かれていく部分が映画全体の流れを壊してしまうのは、残念だが、この作品世界をよくぞここまで持ち堪えた。先行するこのジャンルの傑作,大友克洋『AKIRA』にしたって映画全体を纏める部分で失敗していたのだから、これくらいしかたないかもしれない。
昭和2,30年代の懐かしい風景がベースとなったジャンク・ユートピアを舞台にして、この世界が、かってあったものを失っていくさまが描かれる。そんな中でもがき苦しみながらも、自分たちの世界を守っていこうとするシロとクロの2人の少年たちの傷みを丁寧に掬い取ろうとした、この映画の真摯な姿勢が僕たち観客の胸を打つ。
それにしても蒼井優のシロは素晴らしすぎる。声優というものが、映画をここまでリードしていいのかと思うくらいに、この作品世界を彼女の声が形作ってしまったのは驚きである。
【追記】
『花男』『ピンポン』そして、『鉄コン筋クリート』と一気に松本大洋のマンガを読破したのは5,6年前のことか。まったくルックスの違う3作品だが、突出した面白さで魅了された。あの絵のタッチが嫌いで、読む前には少し腰が引けていたのだが、友人から、どんと全巻渡されてしかたなく読み始めた。そして、気付けば、どんどん加速してページを捲っていた。その独自の世界観の虜になっていたのである。