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映画・演劇のレビュー

『レポゼッション・メン』

2010-07-15 23:14:00 | 映画
 これは10年代の『ブレードランナー』だ。オープニングの荒廃した風景や、漢字やひらがなが目立つ雑然とした都市部の繁華街の夜景なんて、あの映画を明らかに意識した意匠だ。もちろんあの映画に匹敵するほどの奥行きはないが、かなりいい線までいっている。

 ストーリーの巧みさ、ラストのどんでん返しも含めてなかなかよく練られてある。ダークなトーンで統一しながらも、娯楽映画としての矩は越えず、とてもスリリングで、視覚的にも派手でおもしろい。これだけ良心的な大作映画が、どうしてここまで観客から相手にされないのか、理解に苦しむ。劇場はガラガラで、上映2週目からさっそく上映回数も減らされ、狭い劇場に追いやられる。やがて一瞬の後にはひっそり消えていくのだろう。今という時代は映画にとって過酷な時代だというしかない。ジュード・ロウ、フォレスト・ウイティカー主演のSF大作だというのに。

 最初はこの2人によるバディー・ムービースタイルだ。2人がガキ丸出しでほたえる姿がおかしい。2人は幼なじみで昔からこんな感じだ。いい歳をした大人が、まるで少年のように戯れて暴れる。やがて、ある事件から彼らは追うものと追われるものとなり、緊張感のあるドラマが展開していくこととなる。背景となる世界観もリアルだし(人工臓器の回収業が成立する社会)ビジュアルもチープにはならない。なかなかに健闘している。作り手に中途半端な妥協はなく、出来る範囲で徹底している。臓器販売のユニオン社の表の顔と裏の顔もパターンとはいえ悪くはない。すぐ先にある未来社会の状況として無理はない。

 人工臓器のレポ(回収)を担当する男が、自分の仕事に疑問を持ち(というか、妻から、子供のためにもそんな血なまぐさい仕事はやめて販売の仕事に回って欲しい、と言われたからだが)配置換えを希望するが、会社の陰謀で、不可能になる。有能な人材はなかなか脚抜けさせてもらえない。まるで江戸時代の女郎屋みたいだ。罠にはめられて人工心臓を入れられてその借金返済のために身を粉にして働かされる。だが、彼は事故以来レポが出来なくなる。結果的には人殺しに荷担するこのヤクザのような仕事に嫌気がさすのだ。組織を抜け出し、逃亡者となり、やがて、全身が人工臓器で出来たようなひとりの女を助けるため、このシステムを破壊するために立ち上がる。

 ある種のパターンなのだが、僕には先日の『第9地区』よりこちらのほうが面白かった。全体的に少し甘い作りなのが気になるけど、普通のハリウッド映画が得意とするお子さまランチ映画とは一線を画する出来だ。ラストも痛ましい。あんな夢を見る程に現実はシビアなのだ。単純なハッピーエンドにはならないのがいい。




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