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映画・演劇のレビュー

『ハザード』

2007-06-22 20:37:39 | 映画
 園子温が2002年に撮った作品がようやく公開され、DVDにもなった。映画史に残る傑作『紀子の食卓』で大ブレイクする以前、今、この鬼才がその才能を遺憾なく発揮するきっかけを作ったのはきっとこの作品であったろう、と思わせる。そんな作品だ。

 91年、バブルが弾けた後の日本で、無気力にただヌルイだけの毎日を過ごしている大学生シン(オダギリ・ジョー)が、ある日突然ニューヨークにやって来る。彼はただ、「ハザードに行きたいんだ」と言う。子どもみたくハザード、ハザードと連呼する彼は幼い子どもそのものだ。

 言葉も分からないまま、ミッドタウンの危険な場所に行く。彼はなんとなく、そこに行き、そこに身を置く。無表情なオダギリ・ジョーは危険を危険とも思わず、それを感じることすらなく漫然とそこに立つ。まるで、ゾンビみたいにこの街を浮遊するのだ。彼には痛みも恐れもない。

 リー(ジェイ・ウエスト)とタケダ(深水元基)という2人の男たちと出会い、3人で強盗を繰り返す。怖いものはない。自分の命もいらない。凶暴になるでもなく、自然にその空気の中に溶け込んでいく。そのくせ事態がどこまでエスカレートしようとも、彼ひとりは終始傍観者でしかない。映画の主人公であるにもかかわらずここまで自分の意思を感じさせないって凄い。しかし、それでもそんな日々の中で、彼の何かが変わっていく。

 パスポートひとつ持ち、後は手ぶらで東京に戻ってきた彼は無表情な以前の彼とは少し違う。入国審査の時の審査官とのやり取りがいい。幻の1シリングを描く部分がとてもいい。

 女の子のナレーションと、時折インサートされる幼い日のシンが滑走路を歩く場面は、映画の流れを中断するが、このドキュメンタリーのような映画のリアルさと、おとぎ話のような少女の声が交錯したとき、そこには不思議な世界が構築される。この時代の先にあるもの、それを彼は摑もうとした。今の園子温の暴走はこの映画から始まったのだ。

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