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映画・演劇のレビュー

『檸檬のころ』

2007-06-22 19:19:43 | 映画
 岩田ユキの長編第1作。豊島ミホの同名小説の映画化。一作年、原作を読んだ時、とても端々しい感銘を受けた。ノスタルジックなのに、決して懐古趣味ではない。地方都市の高校生たちを主人公にして、昔ながらの高校生活をとても自然なタッチで描くのだ。

 まだ若い作者が、過去を懐かしむためではなく、等身大の「あの頃」としてリアルに描こうとしていたところに共感を抱いた。ことさら自分たちの高校生活を美化するでもなく、かといって貶めるようなこともない。つらいことは、つらいまま、嬉しい事は、嬉しいままにに描いていくという、なんの技巧も施さない自然さが、心地よかった。

 高校3年の夏から、卒業まで。原作は短編連作のスタイルだが、映画は2人の少女たちの話として纏めてある。岩田ユキはこの原作をきちんと受け止め引き継いだ形で映画化している。幾分感傷過多になってしまったのは、映画というメディアがダイレクトにこちらに迫ってくるため、仕方ないことかもしれない。風景は美しく、そんな中を駆け抜ける彼女たちが愛おしい。まるで70年代の青春映画を見ているような気分にさせられる映画だ。才気走った描写よりも、この子たちの日々をありのままに受け止めようとする姿勢が素敵だ。2人のヒロインは、それぞれしっかりこの風景に溶け込んでいる。

 特に谷村美月が素晴らしい。自分に自信がなくいつも教室の片隅で、ひとり音楽を聴いている。音楽の中にいるだけで幸せで、自分ひとりの世界は幸福に満ちている。いつもノートに好きな音楽のことを書いている。将来は音楽ライターになりたいと思っている。
 そんな彼女が屋上で出会った男の子は軽音部に入っていて、自分と同じように音楽が大好きな少年だ。2人でぼそぼそと好きなミュージシャンのことを話したりする。とても気が合う。いままで、音楽のことをこんなふうに話せる友達はいなかったから、嬉しい。なんだかとてもぎこちなく、高校3年にもなって、異性と話すことに極度の緊張を抱く彼らが微笑ましい。特に理科室の掃除を2人でするシーンが素晴らしい。

 この2人だけでなく、榮倉奈々と野球部の2人の男の子たちの恋を描く部分も素晴らしい。みんなシャイで、上手く自分の気持ちを伝えきれない昔風の子どもたちだ。何でもスパスパ言える子もいるだろうけど、こんなふうに不器用な子たちはたくさんいる。中学時代からずっと彼女が好きなのに何も言えない。彼の気持ちは彼女だってよく知っている。でも、それだけ。チームメイトのもう一人の男の子に彼女を取られてしまう。

 どこにでもあるような幾つものエピソードがこんなに新鮮なのは、へんな思い入れがなく、でも、みんなが感じてきた想いを確かに伝えてくれるからだ。この子たちはいつか見た僕たち自身の姿である。

 広々とした学校の回りは山と畑ばかりで、何もない田舎の素朴な風景が広がっている。JRは各駅停車の2両連結で、きっと1時間に1本くらいしか運行してない。この何もない田舎で彼らは多感な時代を過ごしている。最後の学校行事である文化祭をクライマックスに、夏から、冬にかけての受験の日々が描かれる。この町を離れ、東京の大学に出て行くまでの時間。

 クラブ活動をして、恋をして、夢を大切にして、ここから大人になっていこうとする17,8歳のころ。甘酸っぱくて、ほろ苦い日々。この映画は近年稀に見る当たり前すぎるほど、当たり前の青春映画だ。

 卒業式前日、2人がグランドで交わす言葉の数々が胸に沁みる。ありきたりの会話なのに、どうしてこんなに胸に痛いのだろうか。そこには言葉にはならないいくつもの想いが満ち溢れているからだ。普段は同じ教室にいたのにほとんど言葉の交わさなかった2人。この子たちのそれぞれの交錯しないドラマが、ここで唯一出会う。ここで映画は終わって欲しかったが。

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