これは図書館では一応児童書に分類されているけど、これを子どもだけに読ませるのはもったいない。というか、ジャンル分けは一般書であってもまるで問題ない作品であり、内容だ。それどころかとてもハードでこういうのを小学生に与えるのは過激かもしれない。だが、今どきの読書好きの小学生なら十分理解できるのだろう。そして、何よりこれはとてもよくできている。大丈夫だし、読ませたい。
というか、これでは子供には少し難しいのが、いい。こういう子供に媚びない小説こそが本当の「児童書」なのだろう。いつものことだが、YA小説や児童書と分類されている本の中には侮れない作品が多数ある。これもまたそんな傑作の1作である。
僕は以前、戸森しるこのデビュー作『ぼくたちのリアル』を読んでいる。これを手にするまで忘れていた。とても面白かったという記憶はあるのに、である。情けない話だ。しかもあの本の後、こんなにもたくさんの本を出版されていただなんて知らなかった。ほんとにうかつだった。今日まで彼女はノーマークでした。たまたまこの本を手にして、そのかわいい表紙に心惹かれて読み始めたのだが、一瞬で読み終えた。お話の核心に入る後半からは一気にラストまで、息もつかせぬ勢いで読んだ。このかわいい小説が、こんなにも重い話になるなんて思いもしなかっただけで、この不意打ちは強烈だった。
最初のところの描写からは、彼ら二人の関係がこういうところに至るなんて、想像もしなかった。8年前に亡くなったらしい実母の秘密を巡るお話だと思っていたから、まさかのミスリード。(いや、最初から作者はこちらに持ち込む気だったのだろうが)父親のもとから出奔した母親。別の男性のもとへと。小学6年の「ぼく」が母親の謎に迫るお話であると同時に、最終的には親友との関係が描かれることになるのだ。
彼は恵まれた家庭環境にいる。そんな今の生活に満たされている。なんの不満もない。そんなはずの少年が、たまたま開いてしまう出生の秘密という扉。そこから彼は自分の「今」と向き合い、自分はこれからどこに向かうのかを模索することになる。だが、「母親のこと」や「友人のこと」はきっかけでしかないのかもしれない。もちろん、彼にとってはどちらも重要なことだ。だが、問題は相手の側にあるのではない。あくまでも受け止める立場にある「自分の側」にある。彼がこの現実をどう受け止め対応して行くのか。その先に彼の未来がある。
小学校の6年生は子供か大人かと問われたなら、子どもじゃないか、と自信をもって答えられる。だけど、彼はある意味で父親(ふたりの父親!)よりも大人だ。ふたりの父親が逃げてきたことと真正面から向き合い、答えを出そうとする。ラストではなんと彼の口から「ぼくの倫理的判断」なんていうことばが飛び出してくる。そんな立派な少年がとても眩しい。昨日見た『平家物語』といい、これといい、子どもの冷静な目に圧倒される。彼らからいろんなことを教えられる。「波楽」という名のこの少年の覚悟に圧倒される。