北川景子主演、藤沢周平主演、藤沢周平原作の隠れた傑作映画『花のあと』の中西健二監督の作品だから見た。実はつい最近までそのことを知らなかったから、これはただのコメディタッチの映画ではないかと思い、まるで見る気はなかったのだが、インタビューで北川景子が「中西監督だから、」と言っているのを読み、そうだったのかと思い、それなら絶対に見なくては、と思ったのだ。久々の中西健二作品である。そして『花のあと』以来となる12年ぶりの時代劇なのだ。そして僕にとってこれは中井貴一企画ではなく、まず北川景子と中西監督のコンビによる第2作なのだ。
だが、前半は正直言うと少しつらかった。ドタバタしてはしゃぎすぎ。でも、それは確信犯的采配だったようだ。本編である(時代劇パート)伊能忠敬の死後のお話に入ると、一転して映画は落ち着いたタッチで、中西健二らしい作品になる。現在のシーンと過去のシーンが3対7くらいの割合で、バランスもいい。決して重い話ではないが、単純なコメディでもない。主要人物はみんな劇中劇との二役を演じる。軽薄そうな令和シーンと200年前のシリアスなお話がうまく機能している。そして、最後には今の彼らのドラマがちゃんと200年前とリンクする。それは不可能を可能にするための第1歩だ。最後は軽いタッチで終わらせるのがいい。これは当然伊能忠敬を描く偉人伝ではないからだ。みんなで「何か」を成し遂げるまでのお話だから。伊能の伝記映画はずっと以前に加藤剛主演で既に作られている。(『伊能忠敬 子午線の夢』2001年作品だ。これもなかなか感動的な映画だった。)
この映画が素敵なのは、「チーム伊能」(と、敢えて呼ぼう!)が、忠敬の死後、力を合わせて日本地図を作り上げる過程を丁寧に描いたところにある。コメディの異装を纏いつつも、実はとても真摯にそこをきちんと描いたから、ラストの将軍(草刈正雄のワンポイントリリーフがいい)と中井貴一のシーンが感動的だったのである。カメラが日本地図をゆっくりと映していく長いシーンが素晴らしい。畳の上に置かれた巨大な地図。何十枚ものパーツをつなげたその地図は圧巻である。だから「これが余の国なのか!」という草刈正雄の衝撃が伝わる。その横にいる「チーム忠敬」(さっきはチーム伊能って書いたけど)代表中井貴一とのツーショットがこの映画のすべてを伝える。肩の力の抜けた映画だが、とても感動的で見ていて元気がもらえる。主人公の中井と松山ケンイチのコンビもいい。もちろん、北川景子は美しい。