15年ほど前に出版されベストセラーになった小説『包帯クラブ』の続編。映画化もされた。僕は先に映画を見て、すぐに原作も手にしたけど、キャストや内容すらまるで忘れていた。柳楽優弥、石原さとみ、田中圭が主演で高校生を演じていた。というか、彼らは当時まだ十分高校生だった。ファンタジックなお話だが、痛ましい。堤幸彦監督作品。映画はまるで話題にはならなかったけど、とてもいい作品だったことをこの続編小説を読みながら思いだした。混沌とした日々の中で、彼らが信じようとしたもの。高校時代の憂鬱。まだ何者でもない自分。でも、世の中に抱く不満がある。包帯を巻くというバカバカしい行為によって手にすることができたもの。それがしっかりと描かれてある映画であり、小説だった。そして、今、あの子たちが帰ってくる。
前作の続き(空白なくあの小説のラストの直後から、が描かれる)である高校時代のエピソードと、15年後の現在のエピソードが交互に描かれていく。センチメンタルで甘ったるい高校時代の後日譚と、大人になった彼らのシビアな現実を描く現在のエピソード。さらには彼らが望んだ夢や未来がそこには交錯する。この時代、戦争やコロナ禍の中、未来は混沌とし、あの頃以上に先が見えない。そんな地平に立ち、戸惑いながら、でも確かな覚悟を抱き、彼らはどこに向かうことになるのかが描かれる。
とてもいい小説だ、と書いてもいい。だけど、あまりに綺麗ごと過ぎて、前作のような痛みが感じられない。何者でもなかった彼らが大人になり確かな想いを抱いたまま「何者」になる。そんな彼らはなんだか立派すぎる。読んでいて、いじわるな僕は「そんなにうまくいくものか、」と思ってしまう。
あまりに明らかな後日譚で、完結編になっているにも、「なんだかなぁ、」と思った。ここには新しいお話の展開や、驚きはない。めでたしめでたし、という結論だけだ。よくできた映画や小説を見たとき、終わってしまうのが残念で、もっと見たい、読みたいと思うことがよくある。その先も見せてよ、と思う。だから自分で勝手に想像してしまいニヤニヤする。この小説はそんな想像のような作品なのだ。新しい作品というより、あの続きというしかない。
前作の事件の後を描く高校時代のパートが退屈だ。現実には、(生きていれば)あの後の高2の後半戦の時間から卒業までの時間は実在する。でも、小説ではそこは描かない。なのに、これはその掟破りをする。描いてしまうのだ。意味もなく。(だって、ここに描かれるその後は彼らなら「さもありなん」という出来事でしかないからだ。だから驚きはない。)
さらには現代パートは彼らが夢を実現して世界を股にかけて戦っている姿が描かれるのだが、こちらも後日譚というレベルに収まる。驚かない。それどころかお話を収まるところに収めただけ。主人公のふたりが再会してハッピーエンドというのってどうなんだろうか。このお話のファンにとってはたまらないだろうけど、なんだかなぁ、と思う。
包帯クラブが小さな地方都市の美談から、世界中を巻き込むムーブメントになる、という結末は素敵だ。本当にそうなればいいし、この世界ではそういう善意の人たちがたくさんいて、頑張っているのも事実だ。だけど、戦争はなくならないし、悲惨な出来事だらけだ。傷ついた人たちにちゃんと包帯を巻いてあげること。体だけでなく心に痛みを抱える人たちに対しても。素晴らしいことだ。そんなこと、わかっている。だけど、声高にそう叫ばれたなら、なんとなくしんどい。