若いカップルでいっぱいになった劇場で見る。公開からもう1カ月以上になるのに、よく入っている。しかもお客さんの反応もいい。みんなこの映画に騙されに来ている。映画はあざといくらいに謎めいて、ドキドキさせながら、最後まで緊張を持続する。デートムービーにぴったりの作品だ。「ラスト5分あなたは必ず騙される、」という感じのキャッチフレーズにだまされて、劇場に来たカップルたちは、ちゃんと騙されて大満足で劇場を後にすることだろう。実に上手い商売だ。商売人堤幸彦! さすがだ。
心地よく騙させるって、なかなか大変なことである。しかも、最初から騙すと告知して、身構えながら来ている観客をちゃんと騙して快感を与えるとは、至難の業。だが、彼は確信犯的にやり遂げる。
僕に言わせると、あのラスト5分はいらない。あの後にもうひと捻りあるのか、と身構えたほどに単純なオチだ。あの5分はただの辻褄合わせだし、解説でしかない。不要。そんなこと、堤監督も承知。だが、みんなを喜ばせるためには、あれはちゃんとやらなくてはならない。そういうことも含めて商売人だと思う。
でも、それだけではない。これはとても切ないラブストーリーになっている。恋人たちのそれぞれの想いがちゃんと描かれているから、描かなかった部分を想像して、胸が痛くなるのだ。だからこれはただのデートムービーではない。もっと奥が深い。
余談だが、ラストクレジットで流れる80年代のアイテム紹介もおもしろい。87年という明確な時代設定を大事にした。携帯がない時代。バブルの頃。時代が高揚してはしゃいでいた軽薄な時代。だが、そんな中で、恋人たちが誠実に生きていたこと。そういう背景となる設定が実に上手い。だから、楽しめる。
ダサくて、キモくて、女の子に全くモテナイ男の子が、信じられないくらいにキラキラした女の子から積極的にモーションを掛けられ、なんと付き合うことになる。そんな夢のような展開があるはずない。しかも彼女は前田敦子だ。でも、それは事実。そして夢のような毎日が始まる。だが、どこかに落とし穴があるはずだ。世の中そんな上手くいくはずがない。さぁ、どうなる!
前半後半で2部構成(A面、B面と表記される)。静岡から東京へ、舞台を移し、思いもしない展開があなたを待っている。これはネタばれできない映画だから、これ以上は書かない。松田翔太が実にいい。木村文乃も、きれい。だが、最高に絶妙なのは、何も考えていないように見える前田敦子。彼女の闇に飲み込まれる。