今回の4団体は(と言いながら、実は3団体しか見られなかった。ただ、僕が見てない「しまうまパンダ」も含めて)とても個性的なグループばかりで、見ていて楽しかった。こういう劇団があるんだ、という新鮮な驚き。カナリアヤンなショートプレイフェスの唯一の約束事である30分という枠を生かして、短編だからできることに、どの団体も果敢に挑戦しているのがいい。時間をもてあますこともなく、時間が足りなくて消化不良を起こすこともない。みんな絶妙で、実にバランス感覚がいい。30分であることの意味をしっかりと理解している大人な集団が集まったようだ。
音声劇団五里霧中『MK劇場 see,watch,look』
リーディングではない。劇団名が示すように、芝居を音だけで表現するのだ。じゃぁ、ラジオドラマみたいなものですか、と思ったが、朗読劇だった。だが、それが、なぜか、おかしいのは、朗読をわざわざ3人でする。しかも、なんかアクションもある。お話を読んでいるだけなのに、である。別に身振り手振りで表現するのではないけど、なんだか、そういう感じになる。あくまでも朗読なのに、である。お話のほうも、途中からアクションものになるのだ。なんだ、これは!
部屋に何かがいる。最初はゴキブリだ、と思うけど、がさごそという動きが部屋の下からではなく、空中や、上のほうで聞こえる。部屋の上から何者かに見られている。その異物との戦いが描かれる。独白を3人で見せる。ひとりのセリフを3人で見せる。大好きなサッカーゲームの要領で、その何者かと戦う。(それって、何?)敵を風呂場に追い込み(偶然だが)最後は、そこでのバトルとなる。最後はシャワーからの熱湯で攻撃する。浴室には蛇のようなものの抜け殻が残る。
劇団ふぞろいぞろい『正しい走り方』
電車が止まる。何らかのトラブルがあったようだ。今ではよくある光景だ。だが、お話はここから思いもしないシュールな展開を遂げていく。こんなあやしい芝居を見るのは初めてだ。何が怪しいかというと、想像を絶する不条理な行為が、何の脈絡もなく、どんどん溢れるように展開していく。でも、彼女たちはそれを、さも自然なように見せる。見ている僕たちのほうがおかしいのではないか、と思うくらいに自然体だ。ストーリーも、わけのわからないパフォーマンスも、である。へんてこにもほどがある。
密閉された電車の中、会社での出来事を話す2人のOL。セクハラされて大変だ、とか、そんな話を、あっけらかんと満員電車の中で、平気でしゃべる。人が倒れて死ぬ。普通パニックになるはず。向かいの線路では電車が走っている。そこには自分たちが乗っている。白衣の女性は医者のようだ。治療を受けさせられる。何も異常はないのに。だが、彼女は体中傷だらけじゃないか、と云う。そして、手首に包帯を巻く。リスカの後でもあるのか。さらに両手に、足にも包帯を巻いていく。もう体はボロボロだから。黒い服の女がいる。たぶんそれは喪服だ。死から逃げるためには、走るしかない。
わけがわからないのは、そういうストーリーだけではない。白い布、赤い糸、白い糸。たくさんの紙。ばらまかれ、糸は絡まり、それで、どうなるのか。圧倒的な30分だった。こういうタイプの芝居を平気で演じる彼女たちに圧倒された。しかも、それが理屈っぽくはないのだ。理論武装ではなく、あっけらかんとする。恐ろしい。
劇団空組『THE・パン』
これは楽しい。こんなかわいいミュージカル仕立ての作品を確かな技量で見せきる。10年のキャリアを待つ集団だからこそ出来ることだろう。余裕があるのがいい。しかも、なんだかとても初々しいし。歌って踊って、ほろりとさせられるエンタテインメント。
パン屋の店先に並ぶ贅を凝らしたパンたち。そんな彼らの運命が描かれる。オープニングの店員の女の子たちのダンスシーンが華やかで、一気にこの世界に引き込まれる。そして、主人公であるふたりの黒糖パン。他のパンたちはちゃんとお客さんの手に取られて、買われていくのに、自分たちはなかなか売れなくて、困っている。そんなふたりと周囲のパンたちのお話。たわいもないお話だけれど、とてもきちんと作ってあり、安心して見ていられる。
3本見終えてなんだか、豊かな気分にさせられた。それぞれが風呂場、電車の中、パン屋の店頭、と限定された空間を設定し、そこで不条理な戦いを繰り広げていく、というのも共通している。でも、見せ方もアプローチもまるで違い、そんな、バリエーションにも驚く。