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映画・演劇のレビュー

岩井圭也『付き添うひと』

2022-11-13 11:24:59 | その他

いつもながらたまたま、だ。でもどこかで、なぜかつながる。これもまた昨日の『僕らはまだ、少し期待している』に続いて子供の虐待を巡る話。5話からなる短編連作スタイルの長編。5つの話を通して描かれるのは40歳になる弁護士、オボロの成長物語。少年犯罪の付添人弁護士としての彼の仕事を通して、彼自身が自分の過去と向き合い乗り越えていく姿が描かれていく。オボロは犯罪を犯した(巻き込まれた)少年少女を守り戦う。子供たちは様々な形で親からの虐待を受けている。5つのエピソードは彼がかかわった案件だが、そこで描かれるエピソードは読み切りの短編小説というだけではなく、彼の中で連鎖していく長編物語として描かれる。

オボロ自身もまた虐待を受けてきた。7歳から14歳まで、両親から命令されて窃盗を繰り返してきた。14歳で捕まり、少年刑務所に服役し、出所後、弁護士を目指す。29歳で弁護士になり10年。ようやく第1歩を踏み出すことになるまでのお話。子供は親を選べない。一人でも生きられない。親の元で育つ。さまざまな虐待を受けることになる子供たちがいる。そんな少年少女と寄り添い、彼らの味方になることで、かって自分が受けた痛みの意味を考え、あの頃に自分には何が必要だったのかを知る。彼らを助けたいという想いは自分自身の存在する意味とつながる。

読んでいて最初は少し甘いな、と思ったがだんだんこの甘さこそが大事なのだ気づく。これって僕が教師をしていたとき一番大事にしていたことと同じだな、と思った。僕は無条件に子供のいうことを信じた。たとえ彼らが嘘をついていても、ちゃんとだまされた。(まぁ、僕は鈍感だから気づかずにだまされているときのほうが多かったのかもしれないが)甘やかすことと味方になることは違う。きちんと寄り添うこと。たとえ無力であろうともそれが何よりも大事だと思った。そんなふうにして過ごした40年間のいろいろなことを、この本を読みながら思い出していた。

誰かを信じること。信じて寄り添うことの大切さを改めて教えられる。これはそんな小説だ。


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