人間の本能を描く。「性欲」だ。それを「正しい欲」と書いて「正欲」とする。今の時代ようやく同性愛も認知されつつある。だけど、まだまだ偏見ははびこる。人間は本能のまま生きたらダメなのか。犯罪にならないのなら許されるか。道徳的に許されないことはどうか。というか、道義的な判断って、誰がするのか。世間の目か? そうじゃないだろ。生理的な不快感はどうなのか。
この小説で描かれる3人の男女のお話は痛ましい。彼らが直面する問題から目が離せない。やがて、彼らのお話に登場する3人の男たちが引き起こした犯罪の真相が明かされる。それは最初に提示されるような児童ポルノではない。
人の感情の問題が描かれる。それは人によって様々だ。何が正しくて何が間違いなのかなんてわからない。法に触れたら論外だろうけど、それだって時代とともに変化する。「何か」を好きになる。その何かが異性なら恋愛感情になるけど、そうじゃなくても「好き」は大事な感情だろう。価値観の相違を認めたらいいだけの問題だ。だけど、それが理解できない人には脅威となることもある。自分とは関係ないのに、そこに怒りをぶつける人もいるだろう。(それって理不尽だけど)自分が正しいと信じ切れるノ~テンキなおめでたい人は怖い。
この長編小説を読みながら、人間の性癖ってなんだろうか、と考える。人のことなんてどうでもいいはずなのに、そこにかかわる人がいる。自分の価値観を押し付けるばかりで他者を認めることができない。おせっかいでは済まない。この小説を読んだ直後にたまたま『親愛なる君へ』を見た。通じるものがある。あの映画の主人公は自己主張せず、あきらめた。自分の気持ちなんか誰にもわかってもらえないと思った。最初から彼を犯人扱いする警察なんか論外だし。この小説の主人公たちも諦めていたのか。それでいいのか。いろいろ難しい問題がそこにはある。朝井リョウは正面からそんな問題と向き合おうとした。