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映画・演劇のレビュー

角田光代『希望という名のアナログ日記』

2023-03-05 08:29:00 | その他

もう1週間以上読んでいるがまだ終わらない。エッセイ集だから一気読みはもったいないけど、それだけじゃない。これはかなりのボリューム感のあるエッセイなのだ。普通エッセイは軽く読み物で、読んだ瞬間忘れてしまうことも多いが、これはそうじゃない。

最初の20ページほどのエッセイ『<希望>を書く』だけで1冊の長篇を読んだ気分だった。角田光代の自伝的小説って感じ。ここには彼女が作家になるまでの軌跡が綴られる。ちょっとした大作大河ドラマなのだ。その後の短いエッセイも同じ。彼女の感じたものが短編小説のように描かれる。だから余韻を楽しむため、読むのを止めてしまうのでこうなる。
 
さらに第二部の『旅の時間、走る喜び』ではタイトル通り旅とマラソン大会が描かれたエッセイが並ぶ。ここまでで「書くこと、旅すること」という彼女を形成する一番大事なものが描かれる。そして最後の第三部『まちの記憶、暮らしのカケラ』は生活がテーマだ。今の自分、東京での暮らしが描かれる。(ここは幾分ふつうのエッセイらしい)
 
アナログの極みをいく僕だから、彼女の書くことがものすごくよくわかる気がする。面倒なこと、まわり道が好き。そしていつも迷子になって途方に暮れる。でも、そんな生活を楽しんでしまう。誰も行かない観光地を歩いてみたり、すぐ路地に入ってしまったりもよくする。
 
今回ちょうど中間あたりに『それぞれのウィーン』という短編小説が挟まっているが、あれは小説とあるけどこちらの方がなんだかエッセイみたいだった。要するにエッセイと小説の垣根がほぼない。
 
これは2019年に出版された本なのだが、今まで読まないでいてよかった。今このタイミングで読むべき本だったなと思うからだ。長年続けた仕事を辞めてぼんやり暮らしている今だからこそ余計に楽しめた。まぁ、これまでの彼女のエッセイも確かにこんな感じだったが、本作は今まで以上に濃密だと感じた。これは彼女のエッセイベスト『世界中で迷子になって』に匹敵する傑作エッセイではないか。

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