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映画・演劇のレビュー

『彼とわたしの漂流日記』

2011-02-27 08:12:28 | 映画
 この日本版タイトルは、彼女目線になっているけど、この映画はどちらかというと彼目線の映画である。彼の方から始まるし、その中で、彼をみつめる彼女という関係が描かれる。

 漢江の無人島(というか、単なる中州なのだが。だからここは大都会の真ん中である)で漂流するというこのバカバカしい設定が秀逸だ。そこで、ありえないようなドタバタが演じられる。主人公、キム役のチョン・ジェヨンは、至ってシリアスにこの男を演じる。というか、この映画はありえないようなこのコミカルな設定をリアルとして描いていくのだ。橋の上から身投げして自殺しようとした男が、死にきれないまま、大都会ソウルからすぐそこにあるこの島に流され、ここで生活していくうちに希望を見いだしていく。何一つないところで、ひとりきりで、誰に頼ることも出来ず、自力だけで生き抜いていく究極のサバイバルが、笑うしかないようなトホホのエピソードの積み重ねの中で描かれていく。

 そんな彼の涙ぐましい姿を、ひきこもりの女が自宅の窓からファインダー越しにずっと観察し続ける。そのうち彼の奮闘振りを通して、彼女もまた、生きていく希望を見いだすこととなる。大都会のかたすみでひとりぼっちの2人が、お互いを見つめながら、それぞれひとりで生きていく様が綴られていく。

 男はある時からあんなに脱出したがっていたのに、ここでの生活を楽しむようになる。この何もない場所で、ジャジャー麺を食べる夢を実現させていく。とうもろこしを作ることに成功する。その日暮らしに快感を覚えていく。ここでの生活はとても人間とは思えないような暮らしなのに、すごく幸せそうで、ありえないことの中に幸福を見いだしていく。でも、それって見ている方は笑うしかないのだ。大体ここまで「うんこ」にこだわった映画ってないのではないか。『DR.スランプ』も『ピンクフラミンゴ』もこの映画に較べればかわいいものだ。というか、ここでは、うんこは生きていく上での最後の希望となるのである。人間って凄い。なんだか僕も生きる勇気をこの映画からもらった気がする。

 主人公2人の会話が、とても簡単な英語によっておそるおそる為される。そのやりとりもいい。砂に書かれた「HELP」から「HELLO」に至り、徐々に見知らぬ同士が心を通い合わせていく姿は、まるで美しいラブストーリーを見ているようだ。



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