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映画・演劇のレビュー

『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』

2022-06-23 15:59:03 | 映画

ベルナー・ヘルツォークを見るのは久しぶりだ。初めて見たのは今は亡き梅田ピカデリーで見た「ドイツ映画祭」かなんかで上映された『フィツカラルド』。これは衝撃的だった。その後、『アギーレ 神の怒り』が劇場公開され、「ヘルツォーク映画祭」かなんかで特集上映もされた。夢中で見た。あれは80年代前半の話だ。ヘルツォークだけではない。あの頃は楽しかった。いろんな映画が日本に入ってきて続々と紹介された。今まで日本では上映のなかったアジア映画もあの頃から国際交流基金がさかんに上映してくれた。世界にはこんなにも凄い映画があったのか、という驚きの連続。あれから40年。確かにあの頃以上にいろんな映画は溢れている。だけど、もう驚きはない。何を見ても既視感しかない。あるいはマニアックすぎて、付き合いきれない。誰もを震撼させるような映画はない。時代も変わったけど、僕も変わったのかもしれないが。

ここで取り上げた写真は「いかにもヘルツォーク!」って感じで、悪くないでしょ。この映画が、こういう廃船に執拗に拘るような映画ならよかったのだが、そうではない。中途半端な映画でイライラする。

ドキュメンタリー映画だけど、ヘルツォーク監督作品という看板に魅かれて見ることにした。だけど、なんだか気の抜けた映画だ。彼の友人でイギリス人紀行作家ブルース・チャトウィンの軌跡を追った。ふたりの親交を描くのではなく、彼のたどった足跡を改めて辿ることで見えてくるものを描く、はずだったのではないか。でも、なんだか焦点が曖昧で何が描きたいのかわからない。まるで共通項はない映画だけど直前に見た『さよなら、ベルリン』と同じ感想を持った。2本連続で見た2本がどちらも同じようにピンボケ映画だったなんて、あんまりな1日である。しかも2本ともかなり期待して見た映画だけに、がっかりは大きい。

この映画を作るヘルツォークの旅とチャトウィンの生きた旅が重なりあい、どこにたどりつくのか、とても興味深い題材だと思った。彼らは幻想と現実のはざまで何を見たか。パタゴニアから始まり、アボリジニの神話に心惹かれ「ソングライン」を旅する。そこでふたりが見たものを映画は見せてくれなくては意味をなさない。中途半端なドキュメンタリー映画なんかいらない。これはヘルツォークの変態的な狂気の世界がチャトウィンの旅を通して見えてくるという極私的映画でよかったのではないか。なのに平凡で退屈、よくある普通のドキュメンタリー映画でしかない。


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