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映画・演劇のレビュー

『白夜行』

2011-01-25 23:57:22 | 映画
 こんなにも暗くて救いのない話が、なぜたくさんの読者から支持されるのだろうか。僕にはよくわからない。東野圭吾のあの分厚い小説はベストセラーとなり、その後TVドラマ化されたり、韓国で映画化されたりして、ようやく(というか、とうとう、というか)今回日本でも映画化された。

 監督は、『狼少女』でデビューした時は、この人はすぐに消える運命にある、と思わせた深川栄洋。まだ若い彼がその後どんどん商業映画をこなし、今回これだけの大作を任されるようになったことに驚く。こんなにも短期間で、これだけのキャリアを積んだということだけでも驚異だ。この後、今年だけであと2本が公開待ちである。まだ、1月だというのに。きっとまだまだ新作がオファーされているのではないか。いつの間にこんな売れっ子監督になったのやら。一時期の三池崇史並みの大活躍である。『狼少女』を見たときは、へたくそでマニアックな自主映画作家(でも、好感が持てた)でしかない、と思った。だから、すぐ忘れられると思ったのに、ここまでメジャーな作家になるとは、夢にも思わなかった。

 2時間半に及ぶ大作である。まぁ、このクラスの映画としては予算も潤沢ではないし、メジャー大作というよりは、どちらかというと、インディーズ映画テイストの作品に仕上がっている。キャスティングも地味だ。堀北真希が主演という時点で映画としてはスケールが小さくなった。でも、その小ささがこの映画の魅力である。野村芳太郎の大作のような(たとえば、『砂の器』)大きさは深川監督の世界ではない。

 これは社会派映画ではない。個人的な怨恨を扱ったささやかな話である。その矩を越えないところがいい。20年に及ぶ長い歳月を殺人事件の容疑者の娘(堀北)と被害者の息子(高良健吾)が秘密を共有して、別々の場所で共に生きる。2人は一心同体となって、闇の世界を生き抜いていくこととなる。

 ヒロインの堀北真希は、無表情で心のこもらない微笑みを湛えた透明な白い闇を体現する。それを高良健吾が、黒い闇として支えることになる。彼らの生きた歳月を映画は淡々と時間を追いながら見せていく。彼らがなぜこんな行為をするのかはわからない。誰に対する復讐なのかもわからない。そうすることで、何を得ることになるのかもわからない。心の空洞を埋めるために彼らが仕掛けた物語は理解不可能なものだ。

 それをこの映画は納得させるだけの力を持たない。確かに丁寧にこの事実を外側から描いてはいる。そうすることで彼らの心の闇が幽かに見えてくる。だが、そこまでだ。何が彼らを突き動かしているのか。言葉では説明出来ない感情が、観客の胸にまで届いたならいいのだが、それは困難を極める。理屈ではないものを形にして描くのは難しい。しかもそれを納得させるなんて至難の業だ。時代の空気をしっかり感じさせる映像はすばらしいものがある。さすが深川監督だ。低予算の『狼少女』でもそこははずさなかった。感情的になることなく、冷静な視点を貫き、緊張感を持続させる演出は立派だ。だが、そこまでである。その先に踏み出せないで終わる。


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