作、演出はいつものように梶原俊治さんなのだが、今までの梶原さんのタッチとはかなり違う作り方をしている。ストーリーが明確なストレート・プレイである。しかも、暗い。こんなにも暗い自由派DNAの芝居は初めてではないか。
どんな悲惨な状況にあろうとも、最後まで夢をあきらめないで、自分の身を犠牲にしてでも、みんなのために生きようとする。梶原さんは今までもそんな姿勢を崩さない「バカな男たち」を描いてきたけど、そこには未来に対する希望がノーテンキなまでもの純粋さの中で描かれた。『フリーバード』の花火職人たちに代表されるように、今までいくつもの作品でそれを描いてきた。そう言う意味では、今回もいつもと同じだ。基本のところでは変わらない。しかし、彼らの純粋さが、この複雑な世の中において、道化になり、踏みにじられていくことになる。主人公2人は、自分たちが信じた男に裏切られ、自分たちが夢を運んでいたと思っていたことが、人々を無気力にしてしまう元凶だったことを知る。この作品の描く圧倒的な暗さには、彼のいつもの主人公たちでは太刀打ちできないものがある。
着流しの男(林裕介)を男の中の男だと惚れ込み、死んでしまった母に言われたように、男を磨くため、彼についていく覚悟を決めたテツ(西村恒彦)とイシ(辻川ちかよ)の一生懸命さが、裏切られていくラストは悲惨だ。だが、純粋さは、時に人を間違った方向に導くこともある。
「ワールド・セルフ・カンパニー」(そういう企業がある、という設定だ)のこの国への進出により、この国は生きる望みを失ってしまう。そんな世界の中で、それでも自分らしく生きようとする2人の男の滑稽なまでもの純粋さを通して梶原さんは、この生き難い時代を生き抜いていくための方法をさりげなく示してくれる。まぁ、たいした方法ではないのだが、このバカバカしいくらいの単純さは大切なことだと思うのだ。それは、どんな過酷な状況にあろうとも夢を諦めない、といういつも通りのメッセージだ。
「現実」と「妄想」という2つの薬を巡るお話を、これまでのDNAより、意識的にストーリーラインの上に乗せて、重層的なドラマとして描ききったこの作品は、今の梶原さんの気分がとても真摯に描かれてある。ラストの展開は少し安易じゃないか、と思うけど、着流しの中に『悪』、先生の中に『善』を象徴させ、この2人が渾然一体となり、このドラマの根底を担っているという事実は明確で、そこにはブレがないから、作品自身の方向性には誤りはないだろう。正義だと信じていたことが崩れさる瞬間の絶望とそれでも正しいことを貫き通そうとする2人の純粋さはバカだけど尊い。
タイトルロールのクリス(てらにしめぐみ)に象徴させた傷つきやすいピュアなもの、その神聖さが、ラストでもう少し際立つように作れたならよかったのだが、そこも弱い。彼女をただ無垢な魂として描くのではなく、彼女の中にもう少し「何か」を描けたなら、2人が守らなければならないと思ったものが明確になっただろう。惜しい。
どんな悲惨な状況にあろうとも、最後まで夢をあきらめないで、自分の身を犠牲にしてでも、みんなのために生きようとする。梶原さんは今までもそんな姿勢を崩さない「バカな男たち」を描いてきたけど、そこには未来に対する希望がノーテンキなまでもの純粋さの中で描かれた。『フリーバード』の花火職人たちに代表されるように、今までいくつもの作品でそれを描いてきた。そう言う意味では、今回もいつもと同じだ。基本のところでは変わらない。しかし、彼らの純粋さが、この複雑な世の中において、道化になり、踏みにじられていくことになる。主人公2人は、自分たちが信じた男に裏切られ、自分たちが夢を運んでいたと思っていたことが、人々を無気力にしてしまう元凶だったことを知る。この作品の描く圧倒的な暗さには、彼のいつもの主人公たちでは太刀打ちできないものがある。
着流しの男(林裕介)を男の中の男だと惚れ込み、死んでしまった母に言われたように、男を磨くため、彼についていく覚悟を決めたテツ(西村恒彦)とイシ(辻川ちかよ)の一生懸命さが、裏切られていくラストは悲惨だ。だが、純粋さは、時に人を間違った方向に導くこともある。
「ワールド・セルフ・カンパニー」(そういう企業がある、という設定だ)のこの国への進出により、この国は生きる望みを失ってしまう。そんな世界の中で、それでも自分らしく生きようとする2人の男の滑稽なまでもの純粋さを通して梶原さんは、この生き難い時代を生き抜いていくための方法をさりげなく示してくれる。まぁ、たいした方法ではないのだが、このバカバカしいくらいの単純さは大切なことだと思うのだ。それは、どんな過酷な状況にあろうとも夢を諦めない、といういつも通りのメッセージだ。
「現実」と「妄想」という2つの薬を巡るお話を、これまでのDNAより、意識的にストーリーラインの上に乗せて、重層的なドラマとして描ききったこの作品は、今の梶原さんの気分がとても真摯に描かれてある。ラストの展開は少し安易じゃないか、と思うけど、着流しの中に『悪』、先生の中に『善』を象徴させ、この2人が渾然一体となり、このドラマの根底を担っているという事実は明確で、そこにはブレがないから、作品自身の方向性には誤りはないだろう。正義だと信じていたことが崩れさる瞬間の絶望とそれでも正しいことを貫き通そうとする2人の純粋さはバカだけど尊い。
タイトルロールのクリス(てらにしめぐみ)に象徴させた傷つきやすいピュアなもの、その神聖さが、ラストでもう少し際立つように作れたならよかったのだが、そこも弱い。彼女をただ無垢な魂として描くのではなく、彼女の中にもう少し「何か」を描けたなら、2人が守らなければならないと思ったものが明確になっただろう。惜しい。