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映画・演劇のレビュー

伊坂幸太郎『マリアビートル』

2010-12-15 18:36:39 | その他
 殺し屋たちが東北新幹線の中でトランクを奪い合うというお話自体には何の意味もない。伊坂幸太郎3年ぶりの新作なのに、なんとも力の抜けた小説だ。最初はいつものように複数の主人公たちがバラバラに行動する姿をコラージュさせて描き、やがてそれらが1本の話にまとまっていくという新味のないエンタメ。ワンシチュエーション、閉じられているけれど、動く車両、限定された時間、というふうに、とてもシンプルに設定させてある。この状況の中で、彼らがトランクとそれに付随するいくつもの問題や殺しにどう対応し、お話をどこに収めていくのかが、ポイントとなる。

 最初は読む本がなかったから、仕方なく時間つぶしのつもりで読み始めた。半分くらいまではとても退屈だった。ほんまに時間つぶしにしかならないような小説で、いくら往復の通勤電車の中で読むためとはいえ、なんか時間のムダのような気もしたが、後半まで来てようやく少しずつおもしろくなってきた。特に木村の両親が登場するところから、ラストまではドキドキした。あの生意気な中学生がほんの少し動揺するのがいい。

 本を読んでいてなんだか得をしたような気分になるのは、なんだか大げさな言い方だが、そこに生きていく上でのヒントのようなものが描かれているときだ。「何か」がわかったような気分になる、その瞬間がうれしい。でも、こういうエンタメ小説は、ただ楽しいだけで、それ以外の何もない場合が多い。そういう小説はなんだか時間を無駄にしたようで苦手だし、そういう小説にはほとんど手を出さないようだ。そう言えば、芝居でも、エンタメ系はあまり見ない。それって、なんか欲張りだ。そのくせ映画だけは何でも見てしまう。それってなんだろうか。まぁ、それは今回の小説とはあまり関係ない話だけど。

 と、いうことで、ラストまで、約500ページを4日間で、読み切った。持ち運ぶにはかなり重かった(この本自身のことです)けど、内容は、最後まで読むとかなりおもしろい小説だった。(でも、ただのエンタメだけど。)

 但し、最後がちょっとあっけなかった。もっと爽快で胸のすくような大団円が欲しかった気もするが、このくらいが節度もあり適切かもしれない。大団円に勧善懲悪のわかりやすさを求めるなんて、それでは僕の方がただのエンタメ好きではないか。


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