習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団太陽族+AI・HALL共同製作『大阪マクベス』

2011-02-10 22:47:18 | 映画
 「B級社会風刺漫画」「デキソコナイの芝居」という岩崎さんの言葉は自虐的な言い方ではなく、本音であろう。まさにその通りの芝居になっていた。正直言って唖然とする内容だ。これを岩崎さんが作ったなんて、信じられない。後半になると話がさらにエスカレートして、悪ふざけすれすれの描写が続く。

 だが、これはこれで必要なんだ、と思う。今だからこそ、たとえ下品だと言われようとも、こういう芝居を誰かが作らなくてはならない。そういう前提を踏まえた上で敢えて、苦言を呈する。

 ミュージカルスタイルでこの風刺劇を展開させたこと自体は悪くはないのだが、マクベスに囚われすぎて結果的に作品が、奥行きをなくしてしまったのは残念でならない。もっと自由な作り方をしたってよかったのではないか。入り口はマクベスでも出口は全く違ったものになってもかまわない。なのに、お話の方はどんどんエスカレートさせたのに、それを終わらせるときに、またマクベスの方に戻る。そこが僕には納得いかない。

 「橋桁のぼる」という稀代の道化役者、その内面にもっと迫ってもいいと思うのだ。モデルとなったあの大阪府知事、橋下徹の安易なパロディーではなく、その先にあるものをもっとリアルに描くことで、漫画ではない本当の大阪の未来が見えてきたはずなのだから。橋下をなぞって彼の愚かな行為を笑うだけではなく、なぜ、彼がそんなふうになってしまったのか、その向こうに単なる名誉欲とかだけではない歪んだビジョンがあり、それがどうこの世界を壊していくこととなるのかをちゃんと見せて欲しかった。彼の暴挙がファシズムに繋がるというのはちょっと行き過ぎではないか。関西都知事となることは野望ではない。しかもそれによって独裁者としてこの世界に君臨することなんて、出来ないし。

 文化人の収容所と化した閉鎖された伊丹空港の跡地というのも、発想としてのおもしろさの域を出ない。今から10年後の大阪の姿を劇画化して見せるだけではなく、もう少しリアルに描いて欲しかった。だいたい自衛隊が東西に分断され、西の自衛隊は大阪府知事の管轄下に入るなんて、あり得ない。これならまだ万城目学の『プリンセストヨトミ』の大阪が独立して、新しい国家を作るという話の方がリアルに思える。


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