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映画・演劇のレビュー

劇団ひまわり『ハーメルンの笛吹き男』

2017-10-26 21:04:30 | 演劇

 

 50人にも及ぶキャストをほぼ常時舞台の上に乗せたまま、(俳優育成プロダクションである劇団ひまわりだからこそ可能な作品だ)90分(この上演時間の短さも凄い)のミュージカルを作る。壮大な大群衆劇だ。

 

だから当然ストーリーはシンプルになる。にもかかわらず、ミステリアスで余白をたくさん残す。わからない部分が人を不安にする。ハーメルンにやってきた笛吹き男は何者なのか。人々は彼に助けられたのに、彼をないがしろにして、結果的に彼に地獄へたたき落とされる。大人たちにとっては、それはまぁ自業自得なのだが、子どもたちにとっては、これはどうなのか。犠牲になる子どもたちには、何の罪もないからだ。だが、笛吹き男についていく彼らは決して不幸ではない。笛吹き男について行き、子どもたちがいなくなるという出来事は、大人たちにとっては恐怖だが、子どもたちにとって幸福なことなのかもしれない。

 

町長を初めとする町の人たちは、災厄の去った後、豹変し、報酬をもらいに来た彼に冷たく当たる。これはお決まりの展開だが、(オリジナルの伝承をそのまま舞台化した)それをわかりやすく見せるのではなく、わからないまま提示する。

 

この小さなお話の指し示す可能性と居心地の悪さを大切にして、ありのままに示すのだ。そうすると、どうしても不安と謎と気味悪さが残る。見終えた時の、この居心地の悪さこそが作り手のねらいなのだろう。もっと曖昧さのないスッキリとしたドラマとして作り替えることも可能だが、敢えてそれはしない。みんなが満足するような、簡単親切でわかりやすく観客に優しい作り方なんかは、わざとしないのだ。

 

トリックスターである笛吹き男を田渕法明が演じる。彼の無表情がいい。彼の周囲で、たくさんの町の人たちがそれぞれの想いを台詞と歌で饒舌に表現する。その対比がいい。ミュージカルというフォーマットの中に、この不気味なお話を見事に収めた。

 

 

 


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