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映画・演劇のレビュー

『雲のむこう、約束の場所』

2013-09-16 16:35:08 | 映画
 新海誠監督の劇場用長編映画デビュー作。今まで見逃していて、ようやく見た。先日の『言の葉の庭』があまりに素晴らしかったので、旧作を見るのが少し怖かったけど、新作を見れるのはきっと数年後だから、今、まだ見ていない映画のストックがあるのなら、やっぱり見ておこうと思い、勇気を出してレンタルしてきた。

 さすがにまだ、これは作品としては拙い。でも、がっかりはしない。ここには彼の好きなものがすべて詰まっているからだ。特に前半の中学生の頃の、エピソードは素敵だ。冒頭の30分、もしかしたら傑作になるかも、と期待を抱かせた。

 日本が津軽海峡を境に南北に分断されたもうひとつのありえたかもしれない歴史を背景にして、国境線沿いの青森で暮らす子供たちが主人公にして描く。今では蝦夷と呼ばれる、もと北海道にある巨大なタワーを見つめながら祖国を分断された世界で生きる3人の少年少女の恋と夢を描く物語。後半はSF映画になるのだろうが、そんな壮大な話はこの映画の作りに似合わない。というか、新海映画に似合わないのだ。『星を追う子供』もそうだった。設定は壮大なスケールであってもよい。だが、そのに描かれるお話はささやかなものであって欲しい。だが、そのへんのバランスの取り方があまりよくないのだ。

 最初から最後まで日常描写で貫いた作品はいいのだが、そうじゃないものはいずれも構成に破綻をきたす。今回の作品8と言っても旧作だが)はとても惜しい。ファンタジーを目指した『星を追う子供』とは違い、この作品にはまだ揺れがある。だが、3年後の話(それが本題になる)に説得力がなく、話が3人だけのドラマから離れてしまう。しかも、どんどん大きくなるスケールをちゃんと収束できない。ラストも尻切れトンボだ。

 彼女の目覚めが世界をどこへと導くのか。よくわからない。そこまで散々あれこれと伏線を張って来たのに、ちゃんと収束させないまま、そういう設定自体を無にするようなハッピーエンドが用意される。でも、それなら、そこまでに広げた風呂敷はどうなるのか、と思う。なんだか中途半端なのだ。大体これだけのスケールの話を91分に仕立てることに無理がある。しかも、話をどんどん膨らませるのだから。むこうの世界については一切説明されないのも物足りない。二つの国に分断された日本人について、もう少しちゃんと見せて欲しかった。どちらかというと、パラレルワールドの話とか、なんだか小難しいことはどうでもいいのだ。再び戦争になるところから、ラストまでが、つまらないのは、大問題だろう。


 この作品の先には『秒速5センチメートル』がある。それはてもよくわかる。SFではなくどれだけリアルに日常描写からその先に到るドラを作れるのかが、新海作品の魅力なのだと改めて痛感する。でも、彼がリアルとファンタジーを交互に作るのは、自分の世界を閉じたものにしないための試みだろう。それだけにこのへんでSFファンタジーの傑作をぜひ一度作ってもらいたい。そんなことを思わせる作品だった。

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