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映画・演劇のレビュー

『サスペリア』

2019-02-03 17:16:19 | 映画

なんと2時間32分の上映時間である。ホラー映画にあるまじき長さ。オリジナルは1時間41分(くらいだから)1時間近くも長い。お話は同じか、と言われるとよくわからない。もう40年も前に見た映画だ。ダリオ・アルジェントの傑作ホラー。当時大ヒットした作品だ。でもそれはホラー映画としてはおもしろいという域を出ない。映画史に残る傑作というわけではない。

そんな映画を今更リメイクするのはなぜか。しかも、まるでルックスの違う映画として。ここまで行くとオリジナル作品ではないか。これにわざわざ「サスペリア」というタイトルが必要なのはなぜか。基本は同じ話だし、オリジナルへのリスペクトからスタートした映画なのだろう。だが、この映画のアンバランスは常軌を逸している、ダンスシーンの長さ。これはホラー映画ではなく、ダンス映画ではないか、とすら思う。執拗に見せる。最初はほとんどお話はなく、ドキュメントのような映画で、退屈させられる。だが、その執拗な描写の丁寧さは半端じゃない。ここまでやるのは何かある、と思わされる。だから、目が離せない。『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督は、これをただのホラー映画にする気はない。あの映画も同性愛者のお話というくくりには収まらない映画で、見ていて、違和感が残った。ジェームス・アイボリーによる脚本はきっと甘美なお話だったのだろうが、映画はそうじゃなかった。なんとも居心地の悪い映画で、あまり買わない。今回もまた同じような居心地の悪さだ。1時間くらいホラー映画らしいシーンはほとんどない。

何がやりたくてこれを作るのかが、まるで見えてこないから、イライラさせられる。わけのわからないものを、こんなにも緊張を強いられながら、いつまでも見るという苦痛。だが、つまらないから、苦痛だ、とうわけではないから、そこもまた困る。単調な映画だ。だから眠くなる。ナレーションの多用も気になる。映画の世界に引き込まれない。常に距離を意識せられる。

ダンス公演に向けてのカウントダウンと、殺されていく女たちの対比もドラマを盛り上げない。淡々としたドキュメンタリーを見せられる気分で、戸惑う。この惨劇に至るドラマは、惨劇とまるで無縁のように見える。どうしてこんなにもバランスの悪い映画を堂々と作れたのか。ルカ・グァダニーノ監督のこの映画への意気込みが、正確にこのどうしようもなくアンバランスな映画を成り立たせる。これはホラーではない。ではアート映画なのか、と言われると、たしかにそういうふうにも見える。従来のどのジャンルにも収まりきらない不思議な体験だった。終盤の怒濤の展開も違和感が残る。無理している気がする。お話の謎ときには一応はなるけど、不本意な気がする。では何が目的なのか。結局そこに戻ってきて、よくわからない、という答えに至る。


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