なんと2時間41分もの長尺だが、まるで飽きささない。まぁ、タランティーノだから当然のことだろうけど、それにしても、こんな単調な映画なのに、この面白さ、である。しかも、だらだらした映画で、ストーリーはありそうでない。ドキドキさせるのは終盤のシャロン・テート事件を描く部分だけで、それまでの本筋は主人公の2人が過ごす週末の2日間のスケッチでしかない。
落ちぶれた映画スター(レオナルド・ディカプリオ)と、その友人で彼の専属スタントマン(ブラッド・ピット)の土日の2日間だ。それはなんでもない1969年の2月のできごと。ハリウッドを舞台にして、彼らの日常の風景が淡々と綴られていく。まぁ、それはそれではちゃめちゃなんだけど、なんだか哀愁が漂うのは彼らが時代に取り残され、やがて(というか、すでに)零落していく(いる)からだ。しょぼい仕事しかなく、やがては消えていく運命にある。そんな彼らのなんでもない時間がなんだか愛おしい。運命を受け入れるしかない。もがいてもどうしようもない。やがて、ハリウッドを離れてマカロニウエスタンに出る決意をして、イタリアに行くのだが、そこでも満足な仕事はない。再び戻ってきた半年後が、シャロン・テート事件を描くエピローグ、なのだが、そのファンタジーのような終わり方が素晴らしい。もしそうであったなら、というIFの世界の寓話になるのだが、そんなふうになっていてもよかったの、だと思うとなんだか切なくなる。
現実は悲惨で恐ろしい。そんなこと誰もが知っているから、だからこそ、あのラストは胸に沁みてくるのだ。そっくりショーも楽しいが、そのことも含めた時代の気分が見事に描かれていくのが最高だ。音楽や、登場するドラマや映画を巡るエピソードの数々、その再現させ方も含めてすべてが素晴らしい。遊び心満載の映画なのだが、遊びの映画ではない。本気である。もちろん甘いノスタルジアなんかではない。