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映画・演劇のレビュー

柴崎友香『つかのまのこと』

2024-04-11 05:44:00 | その他

これは映画『寝ても覚めても』の後、東出昌大を主人公にして、柴崎友香が写真家の一橋織江とコラボした作品。俳優によりイメージした小説を写真という表現で具現化した映像と一体化した世界は不思議な空間を提示する。家に宿る幽霊という設定で誰もいない古い家を浮遊する東出昌大を描く小説は彼を撮った写真と相まって、物語の映像化に収まらない不思議な世界を作る。

 
冒頭の20ページは写真に短い文が添えられるだけ。本格的に小説が始まるのは20ページからだ。その後も随所に写真が挿入されて100ページ余の作品世界が綴られる。無表情の東出昌大は屋敷内のさまざまな場所に佇む。白のシャツに黒のズボンという出立ちは懐かしい昔からの来訪者を思わせる。
 
人がいない今のこの家は、夫婦とふたりの子どもたちが暮らしている。彼には見えるけど、我々読者には見えない。無人の家で漂う東出の姿しか写真には映らない。幽霊である彼はいつの時代からここにいるのかめ定かではない。昔ここに住んでいたことだけはわかっている。
 
やがてここは壊されていく。古いものは朽ちる。仕方ないことだ。だけど今はまだしばらく彼はここにいる。そんなつかのまのことが描かれる。

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