今年の『階』は「坂道の階」。階は久野那美のプロデュース公演。公演ごとに集まり終了後解散する。今回は七井悠のひとり芝居。40分の中編。
彼はそれまでお家でのんびりしていたのか。夜中にコンビニに行く。もう1本、ビールを買いに行った帰り道。たった1本の500ミリ缶を片手に持ち家に帰る途中。街灯の明かりに誘われて、満月の夜に出会う。そこから始まるファンタジー。それはまるで絵本のようなお芝居だ。
彼はまん丸お月さまに出会う。ほろ酔いかげんで満月に語りかける。もちろん返事はない。彼はこの先にある街灯のない一本道、その先にある食パン工場の話をする。バスは一日4便しか走らない。パン工場で働く人しか使わないバスだ。訥々とパンの耳泥棒の話。2人の門番のこと。話される。幻想的な芝居というよりもこれは小さな童話。児童向けの絵本を読むようにそれを楽しむ。そこではシンプルだけど心地よい豊かな時間を過ごすことができる。七井さんは何もない広い舞台にたったひとり。だけど、幸せ気分になれる。これはそんな至福の40分。