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映画・演劇のレビュー

『赤い文化住宅の初子』

2008-04-02 18:41:18 | 映画
 こんなにも暗くて、貧乏くさい話をバカ丁寧に重く見せてしまうなんて、あれえないことだ。これはなんかの冗談なのか、と和が目を疑ったほどである。しかし、作者(タナダユキ監督)は本気だ。その本気の程は怖いくらいだ。

 そして、その本気の映画が気付くと僕たち観客の胸をえぐり抜く。この痛みの前で立ちすくむことになる。真摯にこの魂の叫びのようなものを受け止めるしかない。その徹底振りは感動的である。

 今時『キューポラのある街』の時代ではあるまいに、なんて思ったが、初子の痛ましい生き様が、こんなにも深く心に沁みることのなるなんて。その事実に驚きを禁じえない。

 父の出奔、母の死。兄と二人だけの生活。高校を中退して働く兄、ラーメン屋でバイトする中3の初子。兄は職場で喧嘩して首になる。自分は高校進学をあきらめて工場で働く決意をする。

 悲惨を絵に描いたようなお話。それをひたすら真面目に、淡々と見せる。ほとんど表情もなく、自分の目の前の現実をただそのまま受け止めて生きていく初子の姿を静かに追いかけていく。可哀想だとか、健気だとかいうありきたりなことは一切言わない。初子を演じる東亜優がとてもいい。この映画から生まれた菅原浩志監督作品『16』もひき続いて見てしまった。これは彼女が東京に出てきて、この映画に出演するまでの出来事をモデルにしたスピンオフ作品。

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