ふたりの男女の物語。Kはウーバーイーツの配達員。カフカの『城』を繰り返し聞いている。ICOはTikToker。都会の迷路を迷走するふたり。
お話は4話からなる。1話はKの話。2話はICOの話。3話は再びKだが、もうひとり、彼が関わりを持つkが登場してKとkの話に。迷子になっている少年kを自宅まで送り届ける旅は、Kを東京から連れ出す。いや、アメリカから帰って来た後、kと出会うのだったっけ? ようやく最終話でKとICOの話になる。ウーバーをしていたKを探し出すICO。ふたりが再会するまでの話。
お互いまるで接点のないふたりが別々の場所、別の人生を歩んでいる姿をさらりと見せて、短い長編小説(150ページほどのボリューム)は終わる。
Kの冒険譚は壮大。ウーバーで世界を回る。ICOの物語は自宅から一歩も出ないで、匿名動画を配信し、ひたすらに宅配を利用するばかり。だからふたりは交わることがない。ただ一度ウーバーの配達で彼がICOの部屋にやって来ただけ。彼女はKを探すためにあらゆるもの(食べ物)を宅配させる。
必要なモノは配達されたモノではなく、Kである。だが、Kと出会うために、宅配を利用しても出会える確率は低いし、出会っても何をしたいわけでもない。交わらないふたりの物語は一瞬の再会で終わる。なんだか昨日見た映画(『パスト・ライブス 再会』)と少し似ている。