4回わたる膨大なインタビュー。『騎士団長殺し』を中心にして、川上未映子が村上春樹に迫る。村上春樹の創作の秘密に迫る、とか、そんな感じではなく、だけど、読みながらいろんなことが見えてくる。村上春樹を通して、世界が見えてくる。大好きな作家とその本の話をする女の子。川上未映子はインタビュアーとしても優れているけど、それは相手が村上さんだったから出来ることで、ふたりの幸福な出会いが、この本に結実する。
対談ではなく、教えを請うわけでもなく、ただのおしゃべりでもあらない。(すみません。どうしても書きたかった!)なんだか不思議な感触なのだ。確かに『騎士団長殺し』の話をしているけど、それだけに止まらない。いや、そこを起点にして、井戸の中に入っていく感じ。川上さんが主人公で彼女が村上井戸の中で冒険する。アリスのように。あれは穴に落ちるのだけど。
なんだか捉えどころもない深い穴に落ちるように、川上アリスは、村上ワールドで、なんだか自由に羽ばたいていく。飄々としているようだけど、とても誠実で、イメージ通りの村上春樹がそこにいる。彼女は大好きな春樹さんと一緒にその世界を体感する。すでに『職業としての小説家』があり、その出版記念として最初のインタビューが行われた。その後、今回の『騎士団長殺し』が書かれ、出版された後、3度のインタビューがなされた。だから、これは都合4度のロング・インタビューなのだ。
彼女は地下2階に降りていく。真っ暗なそこで、顔ながと騎士団長を足して2で割ったような村上さんが待っている。とんでもない大冒険がここには待っている。至福の時間だった。