このささやかなタイ映画を見ながら、やっぱり映画っていいな、と思えた。ひとりの女の子が断捨離する話なのだ。溢れかえる家の中のモノを全て捨て去り、理想の場所にしようとするお話なのだけど、なかなかうまくいかない。それどころか、捨て去れない思い出に引き摺られて、忘れていたいろんなことを思いだし、大変なことになる。そんなお話。
昔付き合っていた恋人や、友人たち、思い出の品を通して、再びつながる。それって、本来の目的の反対のことで、でも、その反対のことが、彼女を前に進ませることになる。予想外の展開に戸惑いながら、でも、そんな思いもしないことが楽しい。この小さなお話が世界を変えていく。
これはそんなにたいした映画ではない。でも、とてもチャーミングな映画だ。自分だけが知っている映画と思いたい。誰にも教えたくない映画だ。でも、なんと大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞したようだ。それにタイでは人気の映画らしい。だから当然自分だけのお気に入り映画にはならない。まぁ、仕方ないことだ。それにこの映画に賞を与えることはあの小さな映画祭らしい選出だ、と思う。こういう地味で目立たない映画にちゃんと光を当てるのはいいことだ。(でも、やはり、個人的にはあまり評判になって欲しくないけど。)
気負うことなく、なんでもないお話を丁寧に描くことで、豊かな気分にさせられる。なんだか、自分だけが得をした気分なのだ。誰も知らない映画をひっそりと見て、満悦する。そんな贅沢。小さな劇場でガラガラの客席で、この素敵な一握りの観客と共有する。それがいい。