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映画・演劇のレビュー

『百日告別』

2016-12-27 00:59:39 | 映画
トム・リン監督の新作だ。日本では来年の春、公開が予定されている。すでに東京国際映画祭で上映されている。待ちきれないから、またDVDで見た。もちろん、今回も日本語字幕はない。中国語字幕のみだ。でも、シンプルなお話なので、概要は十分に伝わる。



大きな自動車事故でたくさんの死傷者が出た。そこで妻を失った男と、恋人を失った女の、それぞれの痛みを描く。ふたりに接点はない。事故という共通項はあるけど、それまではまるでかかわりのない人生を送っていた。事故の後、合同慰霊祭で何度か会することはあっても、これは映画やドラマではないのだ。(だから、これは、)そこからふたりのドラマは生まれない。(という、映画だ。)



100日までの時間が描かれる。ふたりのそれぞれの時間が交錯していく。男は、身重の妻を失い、だから妻だけではなく、生まれてくるはずだった子供まで同時に失った。その喪失感だけではない。彼は、事故の時、「妻子の命のどちらを優先するか、」と医者に問われ「妻を、」と言ってしまったことにも悔いを感じている。詮無い話だ。でも、そんなことのひとつひとつが彼を苦しめる。



女は、一緒に暮らしていた婚約者をなくし、彼の母親からなじられる。事故は彼女のせいではない。やり場のない怒りをどこかにぶつけたかったのだ。まだ結婚前だったから、彼女は彼の家族から妻とは認められない。新婚旅行も決まっていた。ふたりで沖縄に行くはずだった。すべての計画を一緒に立てた。ホテルも飛行機も予約してある。だから、彼女は予定通りに新婚旅行に行く。ひとりぼっちで。映画の中で、この彼女の旅がとても丁寧に描かれる。そこが一番切なく、悲しい。でも、彼女は泣かない。



感傷過多の映画ではない。静かに事故から100日間のできごとを綴っていく。痛みは薄れていくはずもない。でも、時間はどんどん過ぎていく。先日の三木孝浩監督作品『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』と同じように限定された時間の中で自分たちがしたことを、ただそれだけを描く。ここには、そうすることでしか見えてこない事実がある。
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