小説ではないけど、谷口ジロー、関川夏央の『坊ちゃんの時代』を読んだ。夏目漱石を主人公にした明治の青春群像だ。文士たちを主人公にする。1巻では漱石。2巻では鴎外。3巻では石川啄木を。だが、主人公はあくまでもたくさんの人たちのひとりでしかない。どちらかというと周辺のエピソードのほうが面白かったりもする。2巻ではドイツから鴎外を追って日本までやってきたエリスが出会う人々のお話。二葉亭四迷のほうが鴎外よりも興味深い、というように。
増田明美が書いた小説『カゼヲキル』全3巻も一気読みした。毎日1冊のペースで3日で読めた。その3日間は電車の往復が楽しかった。(僕は基本、読書は電車の中でしかしない。)読売新聞の人生案内(人生相談のコーナーだ)での彼女の答えが毎回とても素敵で、僕は彼女の言うことは信用してしまう。そんな彼女が7年ほど前に書いていた小説で、こんな本があるなんて、知らなかった。同じような題材を扱った佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』と較べると、小説としてはさすがに劣るけど、(そりゃ、あっちはプロですから)マラソンのプロが書いただけはある。とても気持ちのいい小説だった。
今月の小説のベストは羽田圭介『コンテクスト・オブ・デット』。ゾンビ物の純文学だなんて、「ないわぁ、」の世界である。特に前半がすごい。この世界にゾンビが溢れていくさまをなんだか、とても日常的な風景として描いている。しかも、作家が主人公で、作者自身がモデルか、と思われる男も登場。笑えるし、怖いし、面白い。エンタメ小説ではない、というのがいい。なぜ人がゾンビ化するのか、という部分の理屈も面白い。考えない人間たちが横行する世界で、ゾンビは当然の進化だと思える。しかし、ゾンビである。それはないわぁ、と思う。
千早茜『西洋菓子店 プティ・フール』
この手の小説にはもう食傷気味、と思いつつも、ついつい手に取ってしまう。七月隆文の『ケーキ王子の名推理』が危ういところで成功していたから、今回はそろそろハズレではないか、なんて思いつつ、読み始める。(すみません、つまらない先入観で)だが、予想に反して、(うれしい誤算)とても面白い。頑固なおじいさんと職人肌で別の意味で頑固な孫娘。ふたりのケーキ職人が中心になり、6つの物語が綴られる。
パティシエールなんていう気取った言い方をするしかないような主人公の頑なさ。そんな彼女に振り回される恋人と後輩。ふたりの男。さらにはその周辺の人たち。町の片隅の古ぼけた洋菓子店。シュークリームがおいしい。おじいちゃんの店。そこを舞台にして、一瞬で消えていくおいしいケーキやクッキーという嗜好品に人生を捧げる。
この作品がいいのは、ただの恋愛ものではないところだ。舞台となったケーキ屋のお話でもない。どちらかというとスイーツ自体のお話だ。おいしいものの秘密について、である。必死になってそれを極めようとする。ただ、それだけ。でも、それが結果的に人間の生きざまみたいなものにもつながる。できることなら楽しいことをしていたい。まだ若い男女が、新しいケーキ作りに邁進する。でも、素朴なおじいちゃんの味も認める。おいしいものを極めたい。それだけ。でも、なんだかそれって潔い。まるでほかのことには興味ないような主人公がすごい。あれでは恋人に愛想尽かされても仕方ないだろう。(でも、彼氏はいい人だから、彼女をずっと大切にしている。好きだから、距離を置く)
彼女は、あれもこれもと、欲張りにならない。これだけしか見えない、って感じ。6つのお話は最初と最後が彼女を主人公にしたエピソードで、真ん中の4つは彼女の周囲の人を主人公にした。(先に書いた恋人、彼女にあこがれる後輩。その恋人のことが好きなおしゃれな女の子。お店の常連の女性。)それぞれがこの店や彼女を巡っての想いをそれぞれのエピソードで繰り広げる。とても読みやすいし、バランスのいい小説で、2日間楽しい時間を過ごせれた。
増田明美が書いた小説『カゼヲキル』全3巻も一気読みした。毎日1冊のペースで3日で読めた。その3日間は電車の往復が楽しかった。(僕は基本、読書は電車の中でしかしない。)読売新聞の人生案内(人生相談のコーナーだ)での彼女の答えが毎回とても素敵で、僕は彼女の言うことは信用してしまう。そんな彼女が7年ほど前に書いていた小説で、こんな本があるなんて、知らなかった。同じような題材を扱った佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』と較べると、小説としてはさすがに劣るけど、(そりゃ、あっちはプロですから)マラソンのプロが書いただけはある。とても気持ちのいい小説だった。
今月の小説のベストは羽田圭介『コンテクスト・オブ・デット』。ゾンビ物の純文学だなんて、「ないわぁ、」の世界である。特に前半がすごい。この世界にゾンビが溢れていくさまをなんだか、とても日常的な風景として描いている。しかも、作家が主人公で、作者自身がモデルか、と思われる男も登場。笑えるし、怖いし、面白い。エンタメ小説ではない、というのがいい。なぜ人がゾンビ化するのか、という部分の理屈も面白い。考えない人間たちが横行する世界で、ゾンビは当然の進化だと思える。しかし、ゾンビである。それはないわぁ、と思う。
千早茜『西洋菓子店 プティ・フール』
この手の小説にはもう食傷気味、と思いつつも、ついつい手に取ってしまう。七月隆文の『ケーキ王子の名推理』が危ういところで成功していたから、今回はそろそろハズレではないか、なんて思いつつ、読み始める。(すみません、つまらない先入観で)だが、予想に反して、(うれしい誤算)とても面白い。頑固なおじいさんと職人肌で別の意味で頑固な孫娘。ふたりのケーキ職人が中心になり、6つの物語が綴られる。
パティシエールなんていう気取った言い方をするしかないような主人公の頑なさ。そんな彼女に振り回される恋人と後輩。ふたりの男。さらにはその周辺の人たち。町の片隅の古ぼけた洋菓子店。シュークリームがおいしい。おじいちゃんの店。そこを舞台にして、一瞬で消えていくおいしいケーキやクッキーという嗜好品に人生を捧げる。
この作品がいいのは、ただの恋愛ものではないところだ。舞台となったケーキ屋のお話でもない。どちらかというとスイーツ自体のお話だ。おいしいものの秘密について、である。必死になってそれを極めようとする。ただ、それだけ。でも、それが結果的に人間の生きざまみたいなものにもつながる。できることなら楽しいことをしていたい。まだ若い男女が、新しいケーキ作りに邁進する。でも、素朴なおじいちゃんの味も認める。おいしいものを極めたい。それだけ。でも、なんだかそれって潔い。まるでほかのことには興味ないような主人公がすごい。あれでは恋人に愛想尽かされても仕方ないだろう。(でも、彼氏はいい人だから、彼女をずっと大切にしている。好きだから、距離を置く)
彼女は、あれもこれもと、欲張りにならない。これだけしか見えない、って感じ。6つのお話は最初と最後が彼女を主人公にしたエピソードで、真ん中の4つは彼女の周囲の人を主人公にした。(先に書いた恋人、彼女にあこがれる後輩。その恋人のことが好きなおしゃれな女の子。お店の常連の女性。)それぞれがこの店や彼女を巡っての想いをそれぞれのエピソードで繰り広げる。とても読みやすいし、バランスのいい小説で、2日間楽しい時間を過ごせれた。