何なんだろうか、このとんでもない緊張感は。彼らが働くスクラップ工場がやけにリアルだ。そこでの日常描写にまず圧倒される。これがこの工場を描くドキュメンタリーであってもいいくらいの面白さだ。ここでの日々を淡々と描くドキュメンタリー映画。そんなのもあり、と思わせる。もちろん、そうではないけど。
映画はそこで働くふたりの男が主人公。彼らが遭遇する事件を通してふたりの日常が壊れていくさまが描かれていく心理ホラーの趣を呈する。確かにお話は破綻だらけだ。後半、怪しい宗教団体がいきなり出てきたり(教祖が宇野祥平!)、だいたいあれだけで殺すのか、とか。その後の対応とか。あそこでもここでも、そんなバカな、と何度となく思う。だけど、スクリーンから目が離せない。不自然だけど、なんだかリアルで、こんなふうになるのかも、なんて納得させられたり。
主人公の秋本(足立智充)の不気味な笑顔が怖い。彼はなぜか今もマスクをいつも付けている。(映画の背景はコロナが終息した後の近未来が舞台になっているようだ)彼は何をされても(しても)いつもヘラヘラしている。だが、それは我慢して耐えているとかいうのではない。そんなふうにしかできない。不器用なのかもしれないが、それだけではないような気がする。いや、そんなことより、この人には感情がないのではないか、と思わせるところが怖いのだ。上司による虐めに合い、でもその理不尽を受け入れている。そんな彼を庇い、助けようとする同僚谷口(玉置玲央)がいる。でも、彼もまた別の意味で壊れている。
そんな壊れたふたりが、死体を社長と例のいじめ上司に押し付けると、彼らは中国人ブローカーに処理を依頼して丸く収まる。でも、今度は韓国人のヤクザが死体処理の代金を請求に来るとか。この先どうなるのか、でもそこは描かれない。
後半は、2人の地獄巡りのような日々が坦々としたタッチで描かれる。加速していくのでもなく、破滅していくのではなく、なんとなくそれでも日常が続く。だが、次第に無抵抗だった秋本が変わってくる。この先の読めない展開を呆然と見守るしかない。