昨年2本の傑作映画をものにした吉田恵輔監督の最新作だ。今彼は絶好調で脂が乗りきっているはず。だから僕も今はまずこれを見ないわけにはいかない、と思いさっそく劇場に行く。だけど、途中からなんだかこれは違うぞ、と思うことになる。描かれる怖さがなんだか少しずれている気がするから、怖くないしリアルではない。
イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)と、まるで売れてないYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)が出会うところから映画は始まる。自信のない彼女を田母神は励ます。とても優しいから彼女は彼の好意に甘える。ふたりは手を取り合いながら投稿動画を撮影していく。そんなふたりを描く前半は悪くはない。この関係がやがて壊れていくことは想像できる。だから危うい綱渡りの関係性を描くシーンは緊張感がある。彼は彼女のために献身的に支えてきた。なのにやがて彼女から蔑ろにされることになる。この辺から映画はお決まりの展開になる。そこから彼の復讐が始まるのだが、このエスカレートしていく描写に僕は乗り切れない。
誰からも相手にされてなかった彼女が、優しくて彼女のためにならなんでもしてくれる神様のような男と出会い、ふたりは周囲からはまるで相手にされてなくても幸せなふたりの世界を過ごしていた。そんなふたりのランデブーは破綻する。彼女が注目を集めるようになると、彼女が変わっていくのだ。そして彼もまた変わっていく。お互いが憎みあい、攻撃しあうことになる。このお話の後半戦が別の映画になってしまい、つまらない。だいたいこんなネタでカリスマYouTuberなんかになれるのか、もうそこからして話がリアルじゃない。
映画の構造は悪くはない。だけど、ふたりの関係性を含む行動にリアルがない。せめてふたりの心理状態だけでも納得のいく描写ができていたのならいいのだが、まるで紋切り型の定番描写で、つまらない。『夜を走る』の滅茶苦茶には納得できたのに、この映画のありえそうな描写にはまるで納得できなかったのはなぜだろうか。それはここにあるお決まりの展開があまりに安易で想像力を刺激されないからだろう。ゆりちゃんの豹変はまだいいけど、田母神の豹変はこの映画からリアルを奪う。これではただの癒合にいいお話にしかならない。そんな単純なお話ではなく想像を絶する世界が繰り広げられるさまを期待した。そのためには彼の心にしっかりと寄り添って欲しかった。