習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

トリコ・A プロデュース『つきのないよる』

2013-08-03 08:09:13 | 演劇
 結婚詐欺の女。だが、彼女は、男たちをだまそうとしたわけではない。誰に対しても誠実だっただけなのだ。それぞれの前ではちゃんと相手を見ている。でも、複数の男と同時に付き合える。普通、それじゃぁ、誠実とは言わない。でも、彼女の中ではそれは間違ってはいない。他人は許さないだろうし、それぞれの男たちが鉢合わすことを恐れるのだから、済まないという気持ちや、まずいという思いはある。だがそれは単純な罪悪感ではない。ある男にはお金を貢ぎ、ある男からはお金をたかる。でも、貢ぐ男のほうが、貢がせる男よりも、好き、というわけではない。状況が違うから、そうなるだけ。

 彼女のトラウマとなったのは母親の家出。買い物に行ったまま、10年も帰ってこない。それって蒸発なのだが、ちょっと長い外出。いつか、帰ってくる。そう思うことにしたようだ。だが、その「事件」が彼女を変える。人を信じることができない。でも、信じたい。


 だます、とか、だまされる、とか。それって受け止め手の問題でしかない。受け止め方が違うと、見え方も違う。彼女には悪気はない。だが、男たちはそうは思わない。当たり前だ。自分だけを愛してくれていると信じたい。そう信じるから、無理な願いもかなえようとする。だが、愛はそんな打算ではない。

 父親との関係とか、伯父との関係。この家を追い出されること。これからどうするのか。複数の男たちが鉢合わせすることは、当然予測出来たし、そんなことに彼女は困惑していない。それどころか、平然としている。結構狭い世界で、それぞれの男と付き合うから、バッティングなんてすぐ起こる。うまく立ち回ることを考えて行動するのでもない。平然としている。

 このお話はまるで何かの寓話のようだ。ひたすらに愛を求める女が、いる。彼女に手を差し伸べる男たちもいる。媚びるでもなく、ただ、求める。そんなはかなくもせつない関係をひとつの特殊な家族の問題として提示する。だが、この特殊はある種の普遍に通じる。引っ越し前の雑然とした空間を舞台にして、行き場を失くす女の内面が、生演奏のサポートもあり、緊張感のある象徴的な舞台として描かれていく。




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