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映画・演劇のレビュー

『バケモノの子』

2015-07-13 21:31:47 | 映画
細田守監督の3年振り、待望の最新作だ。そして期待に違わず、前作『おおかみ こどもの雨と雪』を引き継いで、あれ以上の作品をここに提示してくれるのだ。これだけのスケールで、豪快なドラマを展開しながら、実に繊細で泣かせる。彼は『時をかける少女』からここまで立ち止まることなく、進化し続ける。

特に素晴らしいのは17歳に青年になってからの部分だ。大人になった彼に熊徹は取り残されていく。子離れできない、永遠のガキ。熊徹の声を演じた役所広司が素晴らしい。彼の力に負うところ大だ。普通ならこういうバカを描いて、ちゃんと説得力のある見せ方をするのは困難を極める。だが、とても自然体でそれを可能にした。冷静な九太(染谷将太も素晴らしい!)との対比で見せるのもいい。映画はこの後半部分になり、いきなり転調を見せる。

九太が人間世界と行き来することで、失ってしまった8年間を取り戻して行く、というお話になる。バケモノ世界での日々は彼にとって無駄な時間だったわけではないのに、彼は失った時間を必死で勉強することで取り戻そうとする。同世代の少女と出会い、彼女に導かれていく。それは『おおかみこども』におけるふたり(おおかみおとこと花)の出会いに似ている。お互いがお互いを必要とする。とても自然にひかれあう。

居場所を失くした天涯孤独の少年が、この世界から消えてなくなり、ここではないもう一つの世界で、暮らすふぁ。映画の前半戦の心地よさと寂しさ。それはそれでよかったのだけど、あそこはちょっと予定調和で、このファンタジーだと思い、見始めたのだが、この先どうなるのか、と最初は少し心配だったけど、このお話の本題は実は後半戦にあるのだ、と気付く。そこからはもうスクリーンから目が離せない。

そして、ラスト。渋天街でのバトルから渋谷へと、ふたつの世界を股にかけた壮絶なバトルが始まる。ここからはもう熊徹とのお話ではなくなるのだが、お話の根底にはちゃんと彼への想いがあるから大丈夫だ。

それにしてもこのクライマックスシークエンスは実に迫力がある。こういうスケールの大きなバトルで映画を締めるのか、と感心した。これはなんとアクション大作でもあったのだ。盛りだくさん、というのではない。自然の摂理でこういう展開を見せていく。しかし、このアクションはメインではない。あくまでもこのお話を支えるものでしかなく、これはあくまでも、父と子のドラマ(熊徹だけではなく、本当の父親とのお話もある)であり、ひとりの子供が成長していく姿を描くドラマでもある。こんなにも素直に泣ける映画は久しぶりだ。この夏一番の映画だろう。

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