場の休憩室を舞台にして、紛失した牛の脳髄を巡るミステリ仕立ての劇。閉ざされた空間。ここにやってきた部外者の男。ここの2人の職員。彼らの現状が語られる。牛や豚を捌くという行為。この仕事に対する世間の目。30歳までニートをしていた男と、20歳そこそこで結婚し生活に追われてきた男。同世代の2人の出会い。彼らのなんでもないやりとりが緊張感を増幅する。彼らを包み込む今という時代の気分がしっかり描かれている。だからドキドキする。さりげない世間話の域を出ない会話なのに。夏さんの悪気はないけど、つっけんどんな物言いは人をバカにしているようにも見える。それに対して原さんの相手を少し見下したようで、教え諭すような説教臭さ。この対比がいい。
生き物を殺し、それを食べるということ。誰かがこの仕事をしなくてはならない。しかし、牛や豚を捌くという仕事の生々しさが人に嫌悪感を与える。それは命を奪うという行為でもある。理屈と実感の間で揺れる。それをあくまでも個人的な感覚で描くのがいい。原さん演じる沢村という男を通してそれは描かれる。彼の息子への想い。毎日カップ焼きそばを食べる行為。そこから描かれるのだ。
さらには、命の問題を突き詰めて描こうとはしないのもいい。生理的な不快感をベースにして見せていくのがいい。これは一般論には還元できない。あくまでも個人のレベルの問題なのだ。でも、そこが結果的には一番大切なものを伝えることとなる。実に興味深い題材である。
だからこそ、もう少し怖い芝居になってもよかったのではないか、と思った。前半の静かなタッチで見せていくシーンは素晴らしい。一体どんな話になっていくのか、先が読めない。別になんということもない会話のはずなのに、ドキドキさせられる。夏さんが登場し、彼と原真さんの会話を見ているだけでテンションがあがる。だが、終盤、緒方晋さんも含めて3人がパニックになっていくシーンはストーリーに流されてしまってつまらない。この落差をもう少しなんとかして欲しかった。実に惜しい仕上がりだ。もう少しで傑作になった。それだけに残念で成らない。
作、横山拓也。演出、上田一軒。彼らと前述の3人の役者がタッグを組んだ作品である。役者の夏さんと原真さんによるユニット、 真夏の會による第1回作品。横山さんにとっても上田さんにとっても普段自分の劇団では出来ないことがここでは可能だったのではないか。これは観客である僕らにとっても、作者である彼らにとっても、とても刺激的な舞台となった。だからこれは本当に幸福な芝居だ。
いくら考えても、伊舞(夏)が伊舞ファームの御曹司だと知って沢村(原真)が卑屈になってしまうところはやりすぎだ。それ以上に玄田(緒方晋)が戻ってきてからの急展開は芝居をあまりにわかりやすいものにしすぎた。その結果それまでのミステリアスなタッチが損なわれる。芝居全体をつまらなくする。この芝居は本来もっと不気味なタッチで貫かれていたほうがよい。お話がわかってしまうまでのタメがもっともっと欲しいのだ。緊張感をどこまで持続できるのかがポイントなのに、惜しい。
これは何も起きないのに怖い、というタイプの芝居であろう。何もないのにストーリーが加速していくところにおもしろさがあるはずなのだ。台本はよく出来ている。それだけに演出にはもう少し粘りが欲しかった。エピローグもあまり上手く機能していない。そこでストーリーがさらに加速し、もうひとつ先の恐怖を見せなくてはならないのに、オチをつけて説明するだけではつまらない。
生き物を殺し、それを食べるということ。誰かがこの仕事をしなくてはならない。しかし、牛や豚を捌くという仕事の生々しさが人に嫌悪感を与える。それは命を奪うという行為でもある。理屈と実感の間で揺れる。それをあくまでも個人的な感覚で描くのがいい。原さん演じる沢村という男を通してそれは描かれる。彼の息子への想い。毎日カップ焼きそばを食べる行為。そこから描かれるのだ。
さらには、命の問題を突き詰めて描こうとはしないのもいい。生理的な不快感をベースにして見せていくのがいい。これは一般論には還元できない。あくまでも個人のレベルの問題なのだ。でも、そこが結果的には一番大切なものを伝えることとなる。実に興味深い題材である。
だからこそ、もう少し怖い芝居になってもよかったのではないか、と思った。前半の静かなタッチで見せていくシーンは素晴らしい。一体どんな話になっていくのか、先が読めない。別になんということもない会話のはずなのに、ドキドキさせられる。夏さんが登場し、彼と原真さんの会話を見ているだけでテンションがあがる。だが、終盤、緒方晋さんも含めて3人がパニックになっていくシーンはストーリーに流されてしまってつまらない。この落差をもう少しなんとかして欲しかった。実に惜しい仕上がりだ。もう少しで傑作になった。それだけに残念で成らない。
作、横山拓也。演出、上田一軒。彼らと前述の3人の役者がタッグを組んだ作品である。役者の夏さんと原真さんによるユニット、 真夏の會による第1回作品。横山さんにとっても上田さんにとっても普段自分の劇団では出来ないことがここでは可能だったのではないか。これは観客である僕らにとっても、作者である彼らにとっても、とても刺激的な舞台となった。だからこれは本当に幸福な芝居だ。
いくら考えても、伊舞(夏)が伊舞ファームの御曹司だと知って沢村(原真)が卑屈になってしまうところはやりすぎだ。それ以上に玄田(緒方晋)が戻ってきてからの急展開は芝居をあまりにわかりやすいものにしすぎた。その結果それまでのミステリアスなタッチが損なわれる。芝居全体をつまらなくする。この芝居は本来もっと不気味なタッチで貫かれていたほうがよい。お話がわかってしまうまでのタメがもっともっと欲しいのだ。緊張感をどこまで持続できるのかがポイントなのに、惜しい。
これは何も起きないのに怖い、というタイプの芝居であろう。何もないのにストーリーが加速していくところにおもしろさがあるはずなのだ。台本はよく出来ている。それだけに演出にはもう少し粘りが欲しかった。エピローグもあまり上手く機能していない。そこでストーリーがさらに加速し、もうひとつ先の恐怖を見せなくてはならないのに、オチをつけて説明するだけではつまらない。