ずっと前から見たかったホン・サンスのデビュー作。Amazonで配信が始まったのでさっそく見た。今から30年近くも前の韓国映画である。今見ると当時のなんでもない風景がなんだか懐かしい。そこにあるのは変わりつつある(だけどまだ)昔の韓国だ。96年の映画。
80年代の韓国映画の暗さから少しずつ変化して明るくて近代的な街並みに変わっていく途上の光景が映画の背景になる。当時のホン・サンスは過激な描写を好んだ。激しい恋愛ドラマを見せてくれる。僕が彼の映画を初めて見たのは『江原道の力』。(後日劇場公開時には『カンウォンドの恋』という甘いタイトルになっていた)その後、『気まぐれな唇』を見て彼の虜になった。そこには今まで見たことのない新しい韓国映画があった。その後、彼はタッチを変え、現在のスケッチのような映画を連発するようになる。毎年恒例のように新作が公開される。
延々と飲み屋で食べる,喋る。もちろんつまらないわけじゃないし好きだが、初期のエネルギッシュな彼の世界を体感できる本作はとても魅力的だった。
だらしない3流作家の生活を描く冒頭部から、覇気のないサラリーマンを描くふたつ目のエピソードへ。さらに後半は情熱的な女性たちのエピソードにバトンタッチして、お話全体をまとめる。女たちは作家のふたりの恋人である。
最後のエピソードは作家の恋人であると同時にサラリーマンの妻のである女の話。そこにはさりげなく幻想的なシーンを満載されていて驚かれてくれる。あれは何?って感じ。彼女の葬儀に作家がやって来て夫と向き合う時、別の部屋で寝ていた彼女がやって来た時にはそれはないよ、という驚き。さらには作家ともうひとりの恋人が部屋で殺されているシーンが続くという終盤怒濤の展開には驚きを禁じない。どこまでがほんとでどこからが妄想か、曖昧なまま映画は幕を閉じる。やりたい放題である。
最近ますますおとなしくなったホン・サンスの円熟した映画(『小説家の映画』や『逃げる女』は素晴らしいと思う)もいいけど、この最初の一作の破壊的な魅力には及ばない。