このなんともいい難いタイトルに惹かれた。わかるようなわからんような。なんだか気になるタイトルではないか。
最初のエピソードからガンガンくる。失恋した桃子は酔い潰れて知らぬ間に寂れた喫茶店「雨宿り」に来ていた。イケメン店長と坊さんの黒田。ふたりに見守られて、眠っている。ダメ男に振られて、気がつけばここにいた。そして店長のまずいカレーを食べた。自分の舌がおかしくなったのかと心配になって、桃子は自分の得意なバターカレーをふたりに振る舞う。美味しいとふたりから喜ばれる。お話はそこから始まる。
8話からなる連作。毎週金曜日の夜、失恋を埋葬するための委員会を開催して料理を振る舞う。このなんだかわけのわからない無理な設定で話は進む。スピード感のある展開で桃子の話が終わった後、今度は彼女がみんなから話を聞くことになる。彼女は仕事を辞めてこの喫茶店で働き、恋愛、というか失恋よろず相談室みたいなものを始める。
各章にはカレーから始まりハンバーグ、ポテサラ、おにぎり、とありきたりのメニューが並ぶ。誰もが心当たりのあるもの。それがいい。後半戦はキャロットケーキ、チョコレート、ピザ、と続き最後はおせち。各エピソードには最後にちゃんとレシピも掲載されている。
読みながら心地よい気分になるのがこの手の短編連作小説のパターンだが、これにはなんだか微妙な違和感を感じてしまう。テンションの高さ、世界の狭さ、話が小さく閉じてしまう感じがして居心地が悪い。やってくるお客さんもなんだか最初から決まっていた感じがして、嘘くさい作り物臭がする。なんだろうこれは。
1話は桃子の話。5話は店長。7話で黒田さん、と主人公の3人のエピソードを要所要所に挟み込み全体を構成するそつのなさ。他のエピソードも作為的で一見さんを寄せ付けない。緻密に作られているからなんだか気持ちが悪い。不思議な感じ。よく出来た小説だから(よく出来すぎ)そこが引っかかる。
最後のエピソードでなんと再び桃子の失恋に戻ってくる。モテ女の秘密を介して桃子が改めて恭平を諦めるまでのお話として完結する。この400ページに及ぶ作品が描くのはたったひとつの失恋の話だったのか、と気づく。桃子の内面のドラマとして読めば納得する。これはリアルではなくある種のファンタジーなのだ。