重松清の小説の映画化。若い父親が、妻を失い、たったひとりで幼い娘を育てる10年間の軌跡を追う。子育て映画。山田孝之がこのどこにでもいそうな普通の男を演じる。力むことなく、とても自然に子育てと向き合う。近年エキセントリックな芝居が多かった彼がこんなふうに普通の人を、普通に見せる姿はなんだか新鮮だった。力みがないから、嘘くさくない。山田孝之じゃないみたい。
娘を演じた3人の子役もとてもいい。特に2人目の子が素晴らしい。彼女は小学1年から3年までを演じた。微妙な年齢の女の子の心情を見事に体現した。こういう映画はどうしても得てしてオーバーアクトになりがちだが、無理なく自然体だ。リアルすぎず程よい、娘と父親の関係もまた,同じだ。娘べったりではないけど、しっかり寄り添う。周囲の助けが行き届いていて、恵まれたから、こんなふうに何とか乗り切ることが出来たのだが、(普通なら、こんなにも上手くいくわけがない。どこかで破綻する。でも、彼は周りの優しさに支えられて乗り切る。)
ラッキーだった、だけ、なのかも知れない。こんなの普通ならあり得ない。でも、きっと彼らの(父と娘)頑張りが、功を奏して、周囲の援護を導くことになったのだろう。もちろんみんな優しい。それで、彼が成し遂げたことなのだ。でも、それって、ただ小学校を卒業した(させた)だけのことだ。それだけのことをこの映画は「偉業だ」というわけではない。でも、それがなかなか出来ることではない、ということも事実だろう。ただ、女の人なら、もっと過酷でもそれを易々と(いうわけでは、断じてないけど)乗り越える。なのに、男には難しい。映画はそんな困難と対峙したある男の10年の「奇跡」を追う。
なんてことない映画なのだ。でも、その何でもなさは尊い。2時間の映画は10年の月日を、長くもなく短くもなく、等身大に描いた。じっくりと、何でもない日々の繰り返しを見せた。そんな日々はなぜかキラキラしている。このさりげないことの積み重ねが人生なのだ。そんなふうに思わせられる。